38.朝のできごと

    ※ 「37.館」の続きです。


子どもたちが笑っていた。
かつては見たことなのない、子どもらしく晴れやかな顔で。
彼らは変わった。
けれど、まったく変わっていない。
それは一体どうしたことか、わかるようで、わからない。
彼らが自分を見て、驚いたような顔をしたことがあった。
一度や二度ではない。
自分も変わったのだろうか。
あの頃との違いといえば、戦うことがなくなり、それに付随する活動がなくなり、あの男が隣にいるという、その程度のことなのに。
変わっているようで、変わっていないような。
変わっていないようで、変わっているような。
違いなどわからない。
ただ、子どもたちは笑っていて。
自分もきっと――笑っていた。
それだけのことだ。


それはまるで夢のような時間だった。
想像すらしたことのない、想像することもできなかった時間。
自分の見た夢ではなく、誰かの夢に紛れこんでしまったのではないかとさえ思ってしまうような。
だから、目覚めたとき初めて見た天井が見慣れた自室のものではないと気づき、驚いたのだ。
けれど。
「ラウー……ってなんだ、起きてたのか」
ノックもなしに部屋に入ってくるその男だけは、いつもとまったく変わりがなくて。
「ムウ……」
違う場所でありながら同じものが存在するというその曖昧さが、かえって現実味を帯びているように思えた。
つまり、これは。
「――夢では、ないのだな」




夢と現実の境はどこにあるんだろう。
39.証明』に続く。