Parallel −2−



大好きな人たちがいるんだ。

大好きだから、笑ってほしいんだ。

だから。



「これなんてどうだ?」
ムウが何気なく手にした銀のオブジェを見つめ、ラウはひとつ溜息をついた。
「……ムウ、値札を見てみろ」
云われるままにオブジェをひっくり返す。
「うげ」
――桁が違う。
手持ちの予算とのあまりの差に固まってしまったムウの手からオブジェを取り上げると、ラウはそれを元あった棚に戻した。
「手当たり次第見ていては日が暮れる。ある程度絞り込んでから選べ」
「って云っても、安いのと高いのの区別なんてつかねーよ」
「つけるんだ、バカ」
例えばそのものの材質とか、大きさとか、装飾とか、細工とか。
少し見れば商品のレベルなどすぐにわかるだろうに。
全くムウは、いつでもせっかちだからいけない。ちゃんと考えればマトモな選択ができる頭を持っているのに。
「えー」
なんだよそれ、と呟くムウに軽く溜息をついて、ラウは再び商品の棚に視線を戻した。
2人がやってきたのは、母に云ったとおりの隣町のショッピングモール。
いくつもの専門店が立ち並ぶ中、子供たちは彷徨うようにそこにいた。
彼らが見ているのは主に雑貨店で。
可愛らしい双子の買い物を、周囲の人々は微笑ましく見守っていた。

「ラウー、これは?」
「……こんなもの何に使うんだ」
「これとこれなんてどうよ」
「統一性がない」
「これでどうだぁ!」
「却下」

そんな会話を何度か繰り返す。
いつでも、選択肢を選ぶのはムウで。
そうして、最終判断をするのはラウで。
もちろんムウにだってちゃんと判断はできるのだけれど。
そのことに多少不満を覚えながらも、ムウがラウから完全に主導権を奪おうとすることはない。
ムウとラウの意見が完全に分かれるということはほとんどなかったし。
それに。
――ラウの判断が間違っていたことは、今のところ一度もなかったから。


「あ。これってよくねぇ?」
何気なく立ち寄ったガラス工芸品の店で、ムウは値札を覗き込みながらひとつの商品を取り出した。
「――」
自分とラウの顔の間まで持ち上げ、2人してじっと見つめる。
互いが何を考えているのか、今は手にとるようによくわかる。
「……いいかもしれないな」
「だろ?」
誇らしげに笑いながらも、ムウは気付いていた。
ラウもまた、同じタイミングで同じものを見ていたことに。
ほんの数秒の差だ。
――自分が手を伸ばさなければ、きっとラウがこれを手に取っていた。

商品を包んでもらいながら、ラウの持つ財布を覗き見てムウが呟く。
「これなら買えっかなー」
「何を?」
「んー、ほらあそこにあるやつ」
あそこ、と云われてラウが目を向けた先は、ラッピング用商品のコーナー。
色とりどりの包装紙やリボン、箱、袋。
「ラッピングは今してもらっているだろう?」
そのためにわざわざ遠回りまでしてサービスカウンターまでやってきたのだ。
このモール内でプレゼント用のラッピングをしてくれるのはここしかない。
「だけどさ、あれだけじゃ味気ないって。リボンつけようぜ、リボン。これなんか良くね?」
確かに、彼らが頼んだものはラッピングの中でもかなりシンプルなものだった。
その理由はこれを渡す相手が華美なものを好まないということと、もうひとつ。
彼らの予算が底をついていたから。
シンプルな包装でもリボンをつければだいぶ印象が変わる、というムウの言い分はよくわかる。
けれど。
「……ダメだな」
「なんでだよ。いいじゃんリボン、安いし」
あからさまにムッとした顔のムウがリボンを片手にラウに詰め寄る。
しかしラウは全く気にしない様子でムウの身体をかわし、棚に手を伸ばした。
「どうせ買うならこっちにしろ。それでは予算がオーバーする」
軽く放り上げられたものは、ムウの手にしているものと同タイプだが量の少ない方で。
そんなラウの言葉に、ムウが破顔したのは云うまでもない。



帰宅したふたりは、いつも通りの夜を迎えていた。
父がいて、母がいて、みんなで食事をとって。
テレビを見て、お風呂に入って、色々な話をして。
夜は更ける。
いつもと、変わらず。
「ほらムウ。もう遅いわよ、早く寝なさい」
「もうちょっとー」
「ダメよ。あなた明日学校でしょう?」
母子が繰り返すこの日常茶飯事な会話の中で、ふとムウは時計を見上げた。
その仕草に母は気付くも、急かすようにムウを部屋に追い立てる。それはいつもと変わらぬ光景。
「ちぇ、仕方ないなぁ」
そんな風に悪態をつきながらも、実のところムウの心臓は常よりはるかに高鳴っていた。

――落ち着け。
――気付かれるな。
――いつものように、いつものように。

今にも走り出しそうな足をどうにか押さえ込み、激しい音を立てないように階段を上る。
自分の部屋をスルーして、立つのは、自らの弟の部屋の前。
ノックもせずに扉を開く。
部屋の中、窓辺で静かに佇み、ラウはこちらを振り返った。
「時間か」
「――ああ」






ムウラウお買い物編。
実はまだ続きます。
なんか企んでますねこの双子。
こんなんがそこら歩いてたら、
そりゃあ確かに人目を引きますよね。
しかも手ぇ繋いでるし(1話で)
いいなぁ、私も手を繋ぎたいわ、ラウと。
(……ムウは?/笑)




1≪  BACK  ≫NEXT