48.メモ (前編)



それはよく晴れた、空のとても青い日のこと。

リビングをぐるりと見回したムウは、そこにラウの姿がないのに気づき首を傾げた。
数十分前、ムウが洗濯カゴを手にリビングを横切ったときには、確かラウはソファに座っ ていた。
ラウは大抵日中は、リビングで本を読むかテレビを見るかしておらず、いつもであればム ウが洗濯物を干し終え戻ってきたときも変わらずいるはずだった。
が、今日はラウはそこにいない。
テレビは消してあるし、ソファに読みかけの本が置いてあるわけでもないから、一時的 に席を外したわけではなさそうだ。
2階に行ったのなら、そろそろ昼食時なのだからしばらくすれば降りてくるだろうと、ム ウはテレビをつけようとテーブルの上のリモコンに目を向ける。と、
「なんだコレ……?」
テーブルの上に無造作に置いてあった1枚のメモ用紙に気づき、ムウは顔をしかめた。
手にとって見てみれば、そこには見覚えのある整った字で一言。
『1階 クローゼット』
他には何も書かれていない紙を手に、ムウはまた首を傾げた。
文字を見れば、そして自分たちの現在の状況を考えれば、誰の仕業かは一目瞭然だ。
……というか彼以外の誰かの仕業だとしたらそれはそれで大変なことになるのだけど。
それにしてもラウの意図が全く読めず、ムウはメモを手に小さく唸る。
「まぁ、従ってみたほうがいいんだろうな……」
とりあえずメモの指示通りに1階のクローゼットにムウは向かった。
クローゼットは1階には客間にしかないもので、探すのに苦労はない。
ほとんど使われることがないために物置と化しているクローゼットを開くと、開けてすぐの ところにビニールシートがあった。
確かこれはクローゼットの中でもかなり奥の方にしまってあったはずのものだが、いつの 間にこんなところに置かれていたのだろう。
そう思ったものの、右手にあるメモと同じものがシートに貼られているのを見、ムウはな るほどと頷いた。
シートにつけられたメモには、『キッチン 棚』と書かれている。
「今度はキッチンかよ」
メモをつけたままのシートを片手にキッチンに戻ったムウは、キッチンに据え られた棚の中を上からひとつひとつ覗いていった。
「お、あったあった」
すると、一番下の棚に入っていた、昨日買ったばかりの食パン一斤の下に、例のメモがあった。
『書斎』
どこまでも簡潔なメモに、ムウは脱力しながらも頬が緩むのを抑えられなかった。
一体ラウは、ムウに何をさせたいのだろう?
こんなゲームまがいの、いたずらのようなことを。あのラウが、わざわざこのように手の込 んだことをして。
準備をしている彼の様子を思い浮かべて見ると、そのありえなさに笑えてくる。どんな顔で このメモを用意をし指示された場所に物を置いていったというのか。
そう考えると楽しくて仕方がない。
そうしてこの『いたずら』の先を見るため、ムウは立ち上がりキッチン横のテーブルにシート とパンを置くと2階の書斎に上がるべく階段へと足を向けた――。




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