Parting
-Side R-
「本当に、行くんだな」
「また、会えるよな」
わかっていることを訊くな。
そう思った。
交わすべき言葉などなかった。
だからすぐに背を向けた。
雑踏に紛れ、遠く離れ、何も感じられなくなった頃。
雨が、降り出した。
雨の降る時刻や程度は、あらかじめ予告されている。
それでも傘を持ち歩かなかった理由など、考えたくはなかった。
目指すべき場所は決まっている。
どこかで休むなどという行為は、初めから選択肢にはない。
ただ、真っ直ぐに歩くだけだ。
是でも非でもなく、自分の望むままに。
でなければ、全てのことは意味をなさない。
硬質な厚い扉に背を預け、ゆっくりと息を吐いた。
身体中を伝うものが、気持ちが悪く心地が良い。
それがただの水かそうでないものかなんて、どうでもよかった。
濡れた服を脱ぎ捨て、シャワーのコックをひねる。
熱く熱く降り注ぐそれは、先刻までのものとはまったく違うはずなのに。
身体の奥が、まだ冷たくて――そして熱い。
過去に想いを馳せることはない。
来たるべき未来のため、『今』を売り渡すことを決めたのは自分だ。
お前は、知るな。
知らなくていい。
――こんなものを。
知る必要など、ないのだから。
『俺はずっと、お前が好きだよ』
そんなこと、最初から知ってる。
Side M