dress up



ムウとラウと両親は、一週間後に開かれる母方の親戚のパーティに呼ばれていた。
物心ついたばかりの頃に一度だけ会った親戚のおばさんは、どうやらムウとラウに会うことをとても楽しみにしているらしく、2人にパーティの衣装を送ってくれた。

――そこまではいいのだ、とラウは思う。
はっきり云って人ごみは嫌いでその上パーティなんて持っての外だとは思うけど、おばさんは嫌いじゃなかった覚えがあるから、会うのは別に構わない。
それに、両親とムウはパーティに行くのを楽しみにしていて、自分には特別に反対する理由もなかったから。
みんなも一緒だし、構わないかとは思っていた。

けれど。




「あら可愛い」
「うわ、すごいなこれ」
妙に呑気な母と双子の兄の言葉に、ラウは頭を抱えそうになった。
先刻開いたムウ宛の包みの中身は、子供サイズのフォーマルスーツと靴やら一式だったはずだ。
それが、なぜ。
「つーか何で女用のが入ってんだ?」
シンプルながら可愛らしいピンクのドレスを広げ、ムウは首を傾げる。
ムウとラウが男の一卵性双生児だということは親戚に限らず周知の事実である。
さらに近しい親戚は、彼らが実の子供でないことも知っている。
それに、
「おばさんには前に会ったよな? 4歳くらいんとき。あのときオレ、プールに連れて行ってもらった気がすんだけど」
そう、特に彼女は2人が男だということをちゃんと知っているはずだった。

2人の顔は、全く同じつくりでありながら印象が正反対だ。
どちらも端正な顔立ちではあるのだが、活発で笑顔の絶えないムウは人懐こく、物静かで感情の起伏の少ないラウは大人しいと、2人は印象そのままの性格を持っていた。
ムウより若干目が切れ長で中性的なラウは、確かにしばしば女の子に間違えられることがあったが。

「なー、お前これ着てパーティ出てみれば?」
「いいかもしれないわね。可愛いわよ、きっと」
人の気も知らずにそんな言葉を吐くムウを睨みつけ、ラウは母を見上げた。
ムウの意見に賛同しながらも、母もラウと同じように原因を考えていたのだろう、頬に手を当て首を傾げる。
「あ」
「かあさん? どうかしたの?」
「もしかしたら、あの写真がまずかったのかしら」
「写真?」
何だろう、とムウは母を見上げる。
ラウもまた、無言ながらじっと母を見つめていた。
「ええ、おば様が今のあなたたちの写真を見たいというから、綺麗に撮れているのを何枚か送ったの」
あれはパーティへの参加を伝えたときのことだった、と母は記憶を辿って確かめるように云う。
「……それがどうして?」
「その中にね、お昼寝してるラウのとびっきり可愛い写真があったのよ。だからおば様、ラウのことを女の子だって思い込んでるのかもしれないわ」
それはほんの偶然のことだったのだという。
遊びつかれたのか、 仲良く並んで昼寝をしているムウとラウを見つけて、その様子があまりにも可愛らしいので母は思わず写真に収めてしまったのだとか。
ムウが昼寝をするのはよくあるが、ラウが一緒になることはなかった。
けれどそのときばかりは、ムウの隣には安心しきったように眠るラウの姿があり。
彼らの姿はまるで一枚の絵画のように愛らしく、特にラウはそこらのどの女の子よりも可愛かったのだという。
「かあさん……」
なんでそんなものを、とラウは非難の目を向ける。
おばさんがよく早とちりをするという話は、笑い話として何度か聞いたことがある。
彼女に会ったのはだいぶ前だから、彼女がラウたちのことをしっかりと覚えているという確証だって本当はない。
けれど。
どうしてそんな紛らわしいものを久々に会う人間に送る必要があるというのか。
「だってラウってば、写真とか全然撮らせてくれないんだもの」
拗ねるように云われては、それが事実であるだけにラウに反論はできない。
ラウはなぜか、自分が写真やビデオに記録として残ることを嫌がった。
そのためか、貴重ないくらかの写真は大抵横を向いていたりわざと視線を逸らしたりしていて、自然な表情を撮れることすら滅多になく。
元気いっぱいでフレームから飛び出そうなムウとは反対に、ラウの顔がはっきりと映っている写真はどれも表情が硬く、元々綺麗な顔立ちだけに女の子と見間違えてもおかしくはなかった。
ただでさえ枚数が少なく判別がつきにくいそこに、とびきり可愛い寝顔の写真がくれば、「男の子だったかもしれない」という昔の曖昧な記憶より、「女の子みたい」という今の判断を優先してしまうのは致し方ないことかもしれない。
……そうは思うけれど。

「いいじゃん、着てやれよラウ。お前可愛いんだから」

無神経な双子の兄の言葉に、ラウは内心カチンときながら顔には出さず、珍しくにっこり笑って兄を振り返った。
「ならお前が着ればいい」
誰が着るものか、と言葉ではなく笑顔で返す。
それに気付いているのかいないのか、ムウは相変わらずの元気な笑顔をみせて。
「オレ? オレは無理だよ」
だってオレが着たって可愛くないじゃん、とまた笑う。
その無神経さに腹が立つのだと、云っても聞かないだろうから今回ばかりはラウは行動で示すことにした。
「一卵性双生児で同じ顔だ、無理ではないだろう」
「……え?」
ラウの笑顔にやっと本気を感じ取ったのだろう、ムウの表情が凍りつく。
そんな水面下のやりとりに気付くこともなく、母は呑気に手を叩いた。
「そうかもしれないわね。ムウ、あなた着てみたら?」
「え、ちょっ……」
戸惑って顔を引きつらせるものの、ムウが母とラウに敵うわけがなく。




その後、ピンクのドレスを身に纏ったムウが半べそでラウに謝ったことは云うまでもない。






考えてるときも書いてるときもものすごく楽しかったです。
最初は、ラウが可愛いなぁと思っていたんですが。
終わってみるとムウが可愛くなって…ません か?(汗)
でも、あのラウに面と向かって「可愛い」と云ってのけるムウは
ある意味最強だと思うの。

これの前に書いた導入部分はこちら



BACK