my dear 11月19日はギルバートの誕生日だ。 毎年レイの誕生日はなにかと盛大に祝ってくれるギルバートは、しかし自身の誕生日には 全くといっていいほど無頓着であって。珍しく誕生日当日に仕事が休みだというギルバートに、レイが なにかプレゼントをしたいと考えることは、自然なことだろうと思うのだけれど。 「――それで、なにをプレゼントしたらよいのか迷っている、と?」 頷くレイを見やり、ラウは運ばれてきた紅茶を一口含むんで腕を組んだ。淡々とし たその様に、レイはほんの少しだけ不安を覚えた。 こういった相談は、レイとギルバートの共通の知人であるラウが最適かと思ったの だけれど。そういえば、ラウはギルバートにあまり好感情を抱いていなかったこと を思い出し、レイは手元のミルクティーに視線を落とした。 もしかしたら、昨晩急 に電話をかけて呼び出したことも悪かったのかもしれない。 それでも、レイにとってこういったことを相談できるのはギルバートを除けばラ ウしかいないのだ。 「はい。なにかを買ってプレゼントしようかとも考えたのですが、しかしギルか らもらったお金では、と思うので……」 「なるほどな。中学生ではアルバイトもできないし、かといって金をくれた当 人にものを買ってやるのも気が引ける、と」 ギルバートはレイの後見人であり、レイは生活その他の援助をすべてギルバー トから受けている。感謝の意は常々伝えているが、それでも誕生日に際してその 感謝をある程度の形に表したい。 だが、レイの持つ金はすべてギルバートから 与えられるものであるのだから、そこで金をかけてなにかするだけでは本末転倒 であって。 ギルバートはレイからのプレゼントであればなんでも喜んでくれるだろうけ れど、レイを大切に思ってくれるギルバートだからこそ、レイは金で買える もののみを渡したくないと思うのだ。 「例え同じだけの金額を使ったとしても、ただ買ってプレゼントするよりもな にかを作って渡したいんです」 少しでも自分の心がこもったものをと願うレイに、ラウは納得したように ゆっくりと頷いた。 口元に手を当ててわずかに目を伏せる。その様子に目を奪われていたレイ は、彼の口の端がふいに持ち上げられどきりとする。 「――それで、私はなにをしたらいい?」 細められた彼の目は、迷わず真っ直ぐにレイを射る。 「えっ……」 「なにをしたいか、なにをすべきかは、もうとっくに決まっているのだろう?」 「俺、は……」 図星を指され、レイは思わず狼狽する。 そう、本当は、ギルバートになにをしたいかは決まっているのだ。ただ、ギル バートの目につかないところでその準備をするのはレイひとりでは無理なこと であって。 だからこそ、レイはラウに助けを求めたのだけれど、まさかそんな簡単に見破 られてしまうとは。 「ラウ、俺は――」 ギルになにをしてあげたいのか、どうしたいと思うのかはわかっている。単純 な思考であっても、ありきたりなことであっても、今の自分ができる精一杯のこ とを告げるとラウは楽しげに笑い、鷹揚に頷いた。 「ならば私は、場所と人材の提供をしよう。あとは君の腕次第だ」 「――ありがとうございます!」 「あと……そうだな、当日のギルバートの足止めは私が引き受けよう。その 方が君も動きやすいだろう?」 思いがけない申し出にレイは目を丸くする。 そこまでやってもらうなんて――と 云いかけたところで、しかし言葉はラウの微笑みに封じられてしまった。 「君がそう望むのなら、私はそれの手助けをするだけだ。君はやるべきことを 精一杯やっておいで。その姿を礼としてくれるのなら、私にはそれで充分だ」 ラウは不思議だ。いつだってレイの一番ほしいものをくれる。それは決して言葉 や形にできるようなものではなくて、だからレイは彼が好きなのだと思う。 こんな風に大切な人がいるということが幸せだと感じるのは、ギルバートに出逢えたから だ。レイにとってはラウもギルバートも比べられないくらい大切な人だけれど、後見 人でもあるギルバートにはさらに返しきれないほどの恩もある。 まだ幼い自分には、ギルバートにしてあげることなど限られてしまっている けれど、それでも限られた範囲でギルバートにできる限りの気持ちを伝えたい と、そう思うから。 だからレイは、今ここにいるのだ。 |