hope




そのとき、銃声がどこから響いたのか、キラにはわからなかった。


ただゆらりと、キラが敵と定めた世界を歪める男は倒れ、いつの間にかその場にいた 女性が彼に駆け寄る姿がやけにゆっくりと視界に映るのみで。
もうひとつ、気配を感じて振り返ると、そこには銃を構えた少年がいた。
歳はキラと 同じほどだろうか。しかし金髪の銃を構えたその姿には、その顔には覚えがあった。
2年前、同じようにキラに銃を向けたその男はキラに呪いの言葉を吐き世界を滅ぼさ んとした。その男と少年はよく似た顔立ちをしていた。
そうして、キラは悟る。
この少年こそが、つい先刻までキラと刃を交えていた存在なのだと。
自らをあの 男――ラウ・ル・クルーゼだと名乗り、キラと共に消えゆこうとしたのが、ここにいる彼だ。
彼が、自身が付き従っていただろう相手を撃つ理由がキラにはわからない。けれど確かに 彼は銃を構えていて、その銃口はキラに、そしてキラの向こうにいるギルバート・デュラン ダルに向けられていた。
ギルバートと、彼にタリアと呼ばれた女性が交わした言葉は、かすかにだがキラにも聴こえていた。 撃ったのはレイよ、と彼女は答えた。
キラは初めて彼の名を知った。レイ――彼は、レイというのか。
そうしてギルバートがレイを見たのだろうか、レイは顔を子どものようにくしゃりと歪めて 泣き崩れ、謝罪の言葉を零す。
その様はまるで幼い子どものようで、彼の顔があの 人と同じでなければ、この少年が先刻まで自分と戦っていた相手とは到底思えないほどの ものだった。
確かにレイに撃たれたギルバートは、しかしレイを憎むでもなくやわらかに微笑んでいた。
その微笑みはキラの知らないものだった。
そうして、タリアがキラを振り返り、微笑んだ。ラミアス艦長へ伝言を、と。子どもを 頼む、と彼女は云い、そうして――。
「その子を……レイを、連れて行ってちょうだい」
キラは目を瞠った。なぜ。彼女の抱きしめるその人を撃ったのは彼だというのに。
キラにはわからなかった。ギルバート は微笑むのみでレイを赦し、彼女は自分の命も構わずに子どもたちを生かそうとする。
けれどタリアの瞳はおだやかな母の目をしていて、だからキラは頷き彼らに背を向けた。
座り込んで泣き続けるレイの前に立ち、彼の腕を持ち上げると彼は驚いたように顔を上げ た。キラを見上げ、ギルバートに目を向け、レイはキラの腕を振り解いて拒絶の意を示 す。構わずキラが腕を掴んで強く引き上げると、彼は幼い子どものように身を捩って抵抗した。
「……やっ、あ」
うまく言葉にならないのか、唸るような声を上げて彼は必死で首を横に振る。無理矢理に 立ち上がらせ、引きずってでもその場を去ろうとすると、彼は駄々をこねる子どものように 暴れ、どうにかしてキラの腕を解こうと躍起になっていた。
「いやだ……や、――ギル!」
ギル、と彼は叫ぶ。何度も何度もその名を呼ぶ。けれどその名を持つ人から言葉が返ることは ないとキラは知っていた。
それまで泣き崩れていたとは思えないほどの力を両足に込めて彼は抵抗する。少しでも ギルバートに近付こうとでも思っているのだろうか。
どうしよう。助けを求めるようにタリアに目を向けると、彼女はやはり微笑んでいた。
その目はやさしくレイを見つめていた。
やさしく、けれど確かな距離をもって彼女はレイとキラを見つめていた。

いきなさい、タリアの瞳はキラの背中を押す。


行きなさい。
生きなさい。

行って。
――生きて。




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