ラウと出逢って、もう10年近くが経つ。
初めて顔を合わせたときはレイと変わらぬ年齢のように見えたラウも、今やネオと同 じ頃といってもおかしくない年齢になっていた。
とはいっても、レイとネオに関しては年齢と外見は比例しないのだけれど。
見た目だけであっても同じ年頃のように思えたラウが、レイが兄のように慕うネオの 外見に近い年齢になったということは、レイにとってはとても重要で、けれどそれ は考えてはいけないことでもあった。
ラウはラウだ。
他の誰でもないラウ自身であり、だからこそレイはラウに惹かれたのだと知っている。

「レイ」
「ラウ、どうかしましたか?」
「ネオを見なかったか。先ほどまでそこにいたと思ったのだが」

そういえば、と部屋の中の気配を探れば、ネオはこのあたりにはいないようで。
もうすぐで夕食が出来上がるとわかっているのにどうしてでかけてしまうのだろう。
いつの間にかネオがいなくなってしまうことは、以前から稀なことではなかった。
勝手に出て行ったとしても、少し経てば勝手に戻ってくるのだから、今まではそう気 にもならなかったが、最近、このようなことがよく起きている。
今回のように気にかかる程度に短い期間で起きることは初めてだ。
理由が、あるのだと思う。
ないわけがないのだ、あのネオに限って。
だから、

「……仕方のない人だ。あとで少し云ってやりましょう」
「ああ、そうだな。折角希望通りのスープを作ってやったというのに、冷めて しまったらどうしてくれる」
「先に食べてしまいましょう」

読みかけの本を閉じ、レイは立ち上がる。
そんなレイの様子に微笑みながらも、ふと思いついたようにラウは視線を落とした。

「ネオは最近、私を避けてはいないだろうか」
「え?」
「いや、気のせいならいい」

――どこか寂しげに笑う人を、知っていた。
どうして重なるのだろうとレイは思う。
否、重ならないはずがないのだ。それでも、認めてはならなかった。認められる はずがなかった。ラウは、ラウなのだから。

「ラウ」

振り返るその顔は、いつもどこか儚げで、もの悲しい。
けれどもそこに宿る確かな輝きは、いつだってレイを魅了してやまないのだ。
そう、きっとネオだって。

「俺はあなたが好きです」

初めて逢ったときから決めていた。彼を決して離さないと。
なにもかもを諦めたような瞳の彼の、それでも沈みきれない光に気づいたときから。

「あなたが好きですよ」

忘れない。忘れないで。
どうかどうか、いつまでも。
あなたを思う自分が確かにここにいるのだということを、あなたは確かに思われ ているのだということを、どうか覚えていてくれるのなら。

「……ありがとう」

その微笑みが好きだ。
失いたくない。
ずっと一緒にいたいと、確かにそう思う。




だから、決めたのだ。
例えそれが、運命を変える決断だとしても。