9.モノ



お前にとってはどうでもよくても

こちらにとってはあまりよくない話というものは

存外たくさんあって



それはいつもの他愛のないお喋りから始まった。

「……お前は俺のものなのに」

ふいにフラガが漏らした言葉を、クルーゼはなぜかこの日は聞き流すことができなかった。

「――待て、いつから私がお前のものになった」

常と異なり反応を示すクルーゼに、フラガが驚いたように振り返る。

「いつって、最初からって云ったろ? 俺とお前が出会ったときから」

何度も云ってるじゃないか、と心底呆れたように云われ、思わずクルーゼはむっとなる。

「そんなもの誰が決めた」

「そんなん俺に決まってんだろ?」

「……話にならんな」

呟いて、クルーゼは立ち上がる。

その姿を目で追い、しかしクルーゼの向かう先が部屋の扉だとわかった瞬間、フラガは慌てて立ち上がった。

「ちょ、待てってラウ!」

けれど一歩遅く、気付けば扉に手をかけ振り返ったクルーゼに牽制されていて。

ここで無理に動くとどうなるかわかっているだけに、フラガは立ち尽くすことしかできない。

――流石に今は、命が惜しい。

ちっ、と忌々しげに呟くフラガを見据え、クルーゼは笑う。

「勘違いするなよ、ムウ」

いつものように偉そうな態度に、フラガが眉をひそめる。

「お前は私のものでも、私はお前のものではない」

「んだよ、それ」

不公平だ、とばかりに顔をしかめるフラガに、クルーゼは挑発的な笑みを浮かべて見せた。


「私が欲しければ精進するんだな、ムウ・ラ・フラガ」


え、とフラガが顔を上げたが、時すでに遅し。

一瞬前に開かれた扉はクルーゼの姿を完全に隠してしまい。

「……なんなんだよ、それ」

フラガの呟きは、相手の見えない部屋に吸い込まれていった。




    一体私は彼らに何をさせたいんだろう……。
    単に、クルーゼの「フラガ所有物宣言」が書きたかったの。
    フラクルでこっちのパターンは少ないでしょ?(多分)