7.負けられん



偶然だったり必然だったりする時折の逢瀬は、望んだそれよりはるかにあっさりと終わりを告げる。


例えば抱き合って別れを惜しむとか。

軽くさよならのキスを交わすとか。

自分たちの関係は、そんなに甘いものではないから。

ふいに襲う衝動と戦うのは、自分だけの役目だった。



「それではな」

歌うように呟いた彼の顔は笑っていたのかもしれない。

「また、戦場で」

「――ああ」

できればそんなところで逢いたくはない。

本当に伝えたいことは、云って欲しい言葉は、他にもっとあるはずで。

けれど常と変わることなく、互いに背を向け歩き出した。



「フラガ大尉、どこ行ってたんですか!」

艦に戻った途端に駆け寄ってくる元気な声は、フラガによく懐いている後輩のパイロット。

妙に小言の多い彼は、しかし持ち前の明るさからか周囲に煙たがられることもなく。

いつも何かしら注意を受けているフラガもまた、彼のことは気に入っていた。

「全くもう、すぐに出発なんですからフラフラしないでください!」

「悪いな。ちょっと外せない用事があって」

「……いつもそう云っていなくなっちゃうんですから。フォローする僕の身にもなってくださいよ」

「悪い悪い。今度なんか奢るからさ」

のらりくらりとかわすフラガに、後輩は諦めたような溜息をついた。

そんな彼に苦笑しながら、フラガは何気なくコートのポケットを探る。

左のポケットで、かさりとした音。

取り出すと、それは何の変哲もない紙切れで。

その中央には、たった一言。

書き手の雰囲気そのもののような流暢な字で。

   『 Good lack 』

幸運を祈る。

この場合の「幸運」は、おそらくは一般的な意味とは程遠いもので。


何ものにも堕とされるなと。生き残れと。

――お前を殺すのは私だ、と。


それは何にも勝る愛のコトバ。

(あー畜生)

何よりも器用で、けれど誰よりも不器用な彼の、おそらくはかなり真実に近い心の内。

珍しいまでの。

(嬉しいじゃないか)

一体彼はどんな顔をしてこれを書いていたのだろう。

笑っていたのだろうか。

いつものように。

何もかもを見越したような、人を小馬鹿にしたような、楽しげな笑みを。

――そうならいいな、と思う。

そうやって彼が、想いを綴ったのだとしたら。

「負けられんな、俺も」

呟いた言葉に、後輩が驚いたように振り返る。

「は?」

「いや、何でもない」

「……あのですね」

「ん?」

「負けられたら困るんですよ、こっちも。『エンデュミオンの鷹』なんですからね、大尉は」


そうか、と思った。

そうだ、当然だ。

負けない。負けられない。負けるわけがない。



追っても追われても。

偶然でも必然でも。

どんな言葉を交わしても。




変わらぬ想いがここにある限り。





   やーべぇ、後輩の彼がすごい好きかもしれん。(cv保志総一郎/notキラ)
    実は小説ページの『偶然』と繋がってたりするかもしれない。
    が、微妙に別れシーンが違う(汗)