5.366 「ムカつくな」 「そうか」 あっさりとした返事に、フラガは思わず肩を落とす。 「……何が、とか訊いてくんないの?」 「云いたければ云えばいい」 「……」 「どうした?」 「だってさぁ、コレ」 云って、フラガはクルーゼの首筋の一点を指す。 うなじのあたり。 普段は軍服と髪に隠れて見えないだろうそこにあるのは、赤い所有の印。 「どこのおっさんが付けたんだか知らないけどさ。やっぱなんか、な」 「……お前には関係ないだろう」 「関係大アリだっての。お前は俺のものなに」 「いつから私がお前のものになった」 「いつからって、最初からだろ? 俺はお前のもので、お前は俺のもの」 「……」 「んで、俺の時間はお前の時間。お前の時間は俺の時間」 だからこんなもん読んでる暇ないの、とフラガはクルーゼが手にしていた本を奪い取る。 下手に抵抗される前にと、そのまま背後のベッドに投げ捨てた。 「……馬鹿か」 「馬鹿でいいよ。それでお前の傍にいられるなら」 呟いて、後ろからクルーゼを抱きしめる。 柔らかい髪に顔をうずめるようにすると、どこか甘い匂いがする。 「別に1年365日を俺にくれって云ってるわけじゃないんだぜ?」 それが、逢瀬の時間の短さと少なさを示唆しているとわからないわけがない。 「たまの1日2日間くらい俺のための時間にしたっていいじゃないか」 これで頭にくるとか云ったら絶対縁を切られるんだろうな、とフラガは思った。 だっていつも自分ばかりが想っているようで。 いつだって流されるままに受け入れてくれるからどれほど想われているのかなんて測りようがない。 「――そうだな」 思わぬ言葉に、フラガは返事をするのを忘れた。 「365日ではない1日くらいならお前にやってもいい」 「…………は?」 365日ではない1日。 常ではないその日。 365の次。 ――366日目。 4年に1度だけ訪れるその日を、クルーゼはフラガにやるという。 「――マジ?」 「嘘を云ってどうなる」 馬鹿馬鹿しい、という雰囲気が漂っていたが、フラガはめげずに抱きしめる力を強めた。 「本当の本気だな」 「……何度も云わせるな」 クルーゼの様子はいつもと変わらない。 けれど。 彼の形の良い耳がほんのり赤く染まっているように見えるのは、フラガの気のせいではないと思う。 ――それはきっと、予想ではなく確信。 「ラウ」 「ム……ぅ、わっ」 「暴れるなよ」 「暴れないわけないだろうが! 放せ!」 「嫌だね」 「ムウ!」 一瞬の判断の遅れにより、クルーゼはフラガによって組み伏せられていた。 「――その366日目、今日くれよ」 「ふざけるな。今年は閏年ではない」 「あー、気にすんな」 クルーゼのもっともな抵抗は、フラガの笑顔にあっさりと流された。 ラウさんが可愛い。ムウさんちょっと威厳回復?(そうでもない) |