41.眠い



思考が少しずつ曇ってきた。
視界も歪んでいるようだし、いくら文字を目で追っても頭に入ってこないのがわかる。
――あぁ、こりゃヤバイな。
もう少しだから、と自らをどうにか奮い立たせ、ムウは重く落ちそうな瞼を必死で開き、最後の調節をすべく端末を睨みつけた。
これが終わったら速攻寝てやる。何があろうとこのままベッドに横になってやる。
そう思ったからこそ、ベッドの上に腰かけ膝の上に据えた端末とにらみ合いを続けていたのだけれど。
「ムウ、いい加減寝たらどうだ?」
「寝れねぇって……もう少し、なんだか……」
がくり、と首が傾き、衝撃に驚き慌てて顔を上げる。
背後から呆れたような溜息が漏れたような気がして、ムウは重い頭を反転させてひとり先にベッドで横になっているラウに目を向けた。
「その状態でいくら考えようが良い結果がでるわけがあるまい。意味のないことを続ける必要がどこにある」
至極もっともな言葉に、けれどムウはへらりと気の抜けた笑顔を返し。
「キス……してくれたら、寝る、けど……?」
「――馬鹿なことを」
だろうなぁ、と呟きムウは再び端末と向き合う。
どうしたってまとまらない思考を覚醒すべく頭を振ってみるも、意味のない結果に終わってしまう。
これは本格的にやばいぞと思いかけたそのとき。
ふいに感じた背中の向こうの気配。
頭に手を添えられたと思ったら顔を少し横に向けられて。
こめかみのあたりに触れる、あたたかなものに思考を完全に奪われた。
そうして数秒か数十秒か、背後でシーツのこすれるような音が聞こえてムウは我に返る。
――その一瞬は、意識が完全に覚醒していた。
「ラウ……っ!」
「!?」
ムウに背を向けたままの体勢で抱きこまれ、ラウは身じろぎするもその腕は離れそうにもない。
「なにをする、ムウっ」
反射的に暴れかけ、けれど拘束は解けないもののなんの動きもないことに気づき、ラウは首を傾げた。
そうして身体に力をこめぬようにゆっくりと振り返り――わずかに目を見開いた。
ラウを抱きしめたムウは、先刻までの頑なな様子はどこへいったのやら、その体勢のまま寝こけていたのである。
呆れたような顔で、けれどラウは少しだけ目を細めて、ムウの腕の中に身体を預けた。


やわらかなベッドで愛しい人を抱き、安心して眠りに落ちたムウが、翌朝床に転がった端末を前に頭を抱えていたことはいうまでもない。



    お約束なんだけど、ね。