35.意味



こんなことをして、なにか意味があるのかしら?

かつて、そう云った女がいた。
どこを見ても、誰から見てもわかるいい女だった。
いつでも男を立て、しかし男に従うだけでもないその女は、
去り際にそう云ったのだった。
意味、など。
そんなもの、最初からわかっていれば人間はこれほど愚かにならなかったろうに。
愚かな人間たちは、過去の愚かさを知りつつそれを繰り返していく。
私とて、その人間の罪の一部であるのは否めようがない。

――俺はお前が好きだよ。

こうして非生産的な行為を繰り返しながら、一体どこへたどり着こうというのか。
否、私のような存在が生産的行為をすることすら笑い話であろうが。
意味など、あるはずがないのだ。
この世に作りだされてから数年の間は、確かに私にも意味があったかもしれない。
しかしそれはあの男によって決められたことであり、その意味もまた
今ではその片鱗も存在していないだろう。

――お前にとっちゃあ、意味のないことかもしれないけどな。

意味のない存在がする意味のない行為に、どう意味をつけろというのだろうか。
そう云うと、奴は笑った。
苦しげに目を細めて。

――お前がどう思おうと、俺にとってはお前はお前だから意味がある。

お前のことなど関係ない。
そう云いかけて、口を開いたが言葉にならなかった。
あたたかなものに、唇をふさがれて。
どこかで、誰かを呼ぶ声が聞こえた気がした。
あれは私か、それとも――。




    あやうくムウラウになりそこねかけたもの。うちのラウの女関係が発覚ですね(笑)