33.拒絶 あの子はいつも窓のところにあるイスに座って外を見ていた。 とうさんはあの子のことをラウとよんでいた。 でも、ぼくはあの子の名前を知らない。 ぼくはあの子に名前をいったから、あの子はぼくの名前を知っているけれど、あの子はぼくに名前をおしえてくれなかったから、ぼくはあの子の名前を知らないままだ。 だからぼくらは、ともだちじゃない。 きみの名前は? って、ききたいけど、きけない。 あの子はいつも、ぼくの顔をみない。 うしろからゆっくり近づいても、ぼくが声をかけるまえに気づいてどこかへ行ってしまうから。 いっぱい話したいことがあるのに。 あの子はぼくのことがキライなのかな。 そうだったら、かなしい。 あの子はいつもと同じに窓のところのイスに座ってた。 ぼくが近くに行っても気づかないから、顔をのぞいてみたら、目をとじていた。 ねてるのかな? あの子のぎらぎらしたあおい目は、今は見えなくて。 ぼくよりもうすい色のかみが顔にかかってて、それをとってあげようとぼくは手をのばした。 手が、もう少しであの子のほっぺたについたのに。 あの子は、はっと目をひらいて、ぼくの手をたたいた。 さわるな。 そういって、すごくこわい顔でぼくをにらんだ。 ごめんね、っていったけど、あの子はぜんぜんきいてないみたいで。 あの子はぼくをおして立つと、部屋のドアのほうに歩いていった。 あの子はもうぼくを見ていなかった。 ぼくはずっとあの子を見てた。 きみの名前は? ききたかっただけなのに。 ともだちに、なりたかっただけなのに。 本編的子ムウラウ。 ただそこにいるだけの欠陥品と、それを求めている実子。その矛盾。 |