3.大丈夫か?



「なぁ、七夕って知ってるか?」
「タナバタ?」
「地球にある小国の年中行事なんだけどさ。一年に一度会える恋人同士の星をまつる祭りなんだって」

ふぅん、とクルーゼは興味がなさそうに呟いた。

「で、その日は笹の葉に願い事を書いた短冊をつけて飾るんだってよ」
「……だから?」

こういうときに限って疎くなる恋人にフラガは苦笑した。

「いや、お前ならどういう願い事書くのかなと思ってさ」

どうしてか祭りごとに関してのみ異様な関心を示すフラガに、クルーゼは呆れたような目を向ける。

「別に、そんなものを書く必要などないだろう」

他力本願など願い下げだ、と妙にらしい台詞を吐くクルーゼに、こらえきれずにフラガは吹き出した。
……直後に睨みつけられ、肩をすくめて誤魔化すことになるのだが。

「いや、俺だったらどうか書こうかと考えてみたわけよ」
「?」
「色々考えて――そんで、決めた」
「何を」

「お前のことをずっと好きでいられますように」

今度こそクルーゼは大きく溜息をついた。
――突然何を云い出すのかと思えば、この馬鹿は。

「普通は逆ではないのか?」
「……ま、そうだけどな」

そう、普通は。
自分が相手を、でなく、相手が自分を、のはずだ。
けれど。

「多分俺は、お前が俺を殺してもお前が好きだ」

何を云う、とクルーゼは顔をしかめる。

「俺がお前を好きな限りは、きっと何も変わらないから」
「……自意識過剰だな。とんでもない自惚れだ」
「知ってる」

優しく笑うフラガに、クルーゼは居心地が悪そうに目を逸らした。

「本当は、願い事なんかいらないんだよな」
「?」
「俺はお前が好きだからさ」

どれほどの時が経とうと。
どんなことがあろうと。
言葉では表せないこの感覚を、彼にどうやって伝えたらよいのだろう。
これほど愛おしいのに。

「――え?」

ふいに伸びてくるクルーゼの白い腕に、反射的に肩をすくめる。
まさか殴られるなどとは思わないが。
思わず目まで閉じてしまって、直後に感じたのは、額を覆うあたたかな感触。

「……ラウ……?」

クルーゼからこちらに触れてくるということは滅多にないことで。
何があった、と驚くフラガをよそ目にクルーゼは「ふむ」と呟いた。
よくよく見れば、クルーゼは片手をフラガの、もう片手を自分の額に当てていて。

「熱はないようだな」

これは、もしや。

(…………こいつ、俺が熱に浮かされてこんなこと云ったとでも思ってんのかよ?)

いや、彼の考えそうなことだとは思うのだけれど。
なぜか真剣に首を傾げるクルーゼを、それでも可愛いとか思ってしまうあたり重症だ、自分も。

「大丈夫か?」

――頭。

正面から真っ直ぐにこちらを見つめるクルーゼの瞳は真剣そのもので。
……確かに、可愛い。
こう変なところで天然なあたりが。
けど。

「……お前なぁ」
「?」

声のトーンが変わったのに気付いたのか、本能的にクルーゼはフラガから離れようとする。
けれど、それはもう手遅れで。
気付けば。

「ちょ……待て、何だムウ」
「何だ、じゃない。」

問答無用、とばかりにフラガはクルーゼの動きを封じにかかる。

「待てというのが……っ、……ぁ……」


――結局、いつもと変わらぬ休日を二人は過ごすことになる。




なんちゃって。