29.まぶしい



ゆっくりと意識が浮上していくのがわかる。
ああ、目が覚めるのか。
夢現にそう思いながらも、目を開くことはできない。
かろうじて動く指先をシーツの上に滑らせると、自分のすぐ横にわずかな温度差があることに気づく。
まだ温かい。
つい先刻まで誰かがそこにいただろう事実は明白で、それが誰であるかなどということは初めからわかっている。
起こさないように気をつけながらベッドが出て行ったのだろうが、こうやって目覚めてしまったのだから意味がないように思う。
けれど、そんな気遣いも嫌いではない。
しばらくしたら、朝食ができたと起こしにくるのだろう。
それまで、このまどろみのなかで流れゆくときに身を任せるのもよいのかもしれない。
とても心地が良いのだ。
けれど時間と共に意識もはっきりとしてきて、閉じられていた目がわずかに開かれたのがわかる。
部屋はまだ、寝る前と同じにカーテンが下ろされたままだった。
朝はもう少し先かもしれない、そう思った矢先に。
しゃっ、と軽い音がして、世界が白く染まった。
反射的にきつく目を閉じるが、瞼のむこうの光を遮ることはできず、それまでの心地良い闇から鮮やかな光の中に意識を投じることとなる。
光から逸らそうとした顔を止めるように、頭に手が触れる。
「ラウ、もう朝だぞ」
再び布団にもぐりこもうとしたのをやんわりと押さえられ、降ってくるのはよく慣れた声音で。
「……ん……」
髪に触れる手を払うように頭を振るが、その手が離れゆく様子はないようで。
「ワガママいうんじゃないの」
しがみついた布団を剥ぎ取られそうになり、いやいやと首を振るラウの額をムウは指先でぴんと弾いく。
驚いたように目を見開いたラウに、ムウは今度こそ楽しげに笑ったのだった。




    あ、甘い…? もしかしなくてもこれってかなり甘めですか?(笑)