28.向こうから見たこっち



眼下では人々がせわしなく行き交っていた。
何を急ぐというのだろう。どれだけ時間を惜しもうと、たどりつく現実などたかが知れているというのに。その先に素晴らしい未来など、必ずしもあるわけではないとわかっているというのに。
人々はただ一心不乱に歩き、その流れは一瞬ごとに違う風景を描いていく。
そこから切り離された全く違う空間から、ラウはただ人を見下ろす。
しかし同じような流れの中にありながら、その中の全てがただ歩いているというわけでもなく。
軽やかに人の間を抜けていく者、もたついている者、必死の形相で前を睨みつけている者、流されながらもぼんやりと周囲を窺っている者――。
遠目にはひとつの流れであっても、個々を見てみればこれほどまでに異なるものかと感心すら覚えてしまう。
さして面白いものでもないのに、なぜか目が離せないでいると、すぐ背後に覚えのある気配が現われる。
「何してんの、ラウ?」
気になるものでもあるのか、と同じように眼下に目を向けるムウに、ラウは一度だけ首を横に振った。
「いや、ただ見ていただけだ。――よく動くものだと」
ラウの云わんとすることがわかったのか、見下ろしたままムウは「ああ」と頷いた。
誰かと目でも合ったのか、わざとらしく手を振り、笑う。
「じゃあ俺たちは、よほど暇なやつだと思われてるんだろうな」
こんなに時間にこんなところにいたらな。
本当はそれほど暇というわけでもないのだが、地上の動とこちらの静は格差が激しすぎて根本を比べようと思う気にもなれない。
誰がどういう立場で何をしているなどということは、こちらにもあちらにも関係のないことで、予想も判断も勝手にするしされるだろう。
結局のところ、そんなのはどうでもいいことなのかもしれないけれど。
そうした結論に至って、ラウはこちらを見ることのない人々に背を向けた。




    こちらとあちら。違うもの。同じもの?