2.夜明け たまの逢瀬は刹那の快楽にすり替わり 日の昇る前にあいつは背を向ける 「行くんだな」 沈黙は暗黙の了解 それを破ったのは自分 あいつは何も云わない ただきっと 何も見ていない目でこちらを見つめているだろうことはわかって 「ったく、ニホンの大昔のお貴族様じゃあるまいしよー」 前に何かの文献から仕入れた知識 女はただ男を待つのみで 男は女の元に訪れはしても日が昇る前に帰ってしまう かつてはそんな時代があったらしい けれどどれほど飛行技術が発展しても どんなに早く移動ができたとしても 会えなければ意味がないのに 後朝(きぬぎぬ)の文なんて そんなものは必要ない 想いだけが通じていればいいなどと そんなことは思わない けれど 「死ぬなよ」 いつ飛び込んでくるかわからない情報を漁り あいつについてのことがあれば安堵する それは 生きていたから ではなく ――俺以外の誰にも殺されるな 死が二人を分かつまで けれどその死は自分たちが招くもので 死神の訪れなど 誰が待ってやるものか 新たな明日が来る前に あいつは背を向ける 俺に 全てに |