14.白紙



男はファイルから、何枚かの資料を取り出した。

そこには様々な記録があり。

彼が手にする情報は、全て最先端のものであり、例えどんなものであろうと偽りは許されない。

どこからであっても確かなものを彼は求め、それを活用していた。

手元の資料には、三人の子供の顔写真。

彼らはうまく成長しているらしい。

力は充分だし、命令には従う。

あとは実戦で使うだけなのだが、さてどこで使おうか。

計画通りの流れに、男は口元を歪めた。

大西洋連邦がなにやら造りだしているという話は聞くが、それも近々こちらの手に渡ることだろう。

プラントの動きも予想の範疇内だ、かのコーディネイターどもに首輪をつけるのならば――。





「何を百面相しているんだ、お前は」


ふいに背後から響く声を、男――アズラエルはわざとらしいまでの笑顔で迎えた。


「いや、彼らの経歴をどう書こうかと思ってね。本当に何もないから、あいつら」


手にした資料を軽く持ち上げてみせる。

あからさまな誤魔化しであるが、嘘ではない。

戦闘のために強化されたナチュラルである彼らに、過去などというものはない。

記録の空白部分を指差す様子を胡乱気に見下しながら、クルーゼは口を開いた。


「……そんなもの、白紙で充分だろう」

「まあ、そうでしょうね」


肩を竦めてみせ、アズラエルは一旦クルーゼから視線を外すと立ち上がった。

手にしたファイルを顔の高さまで上げ、肩越しにクルーゼを見据える。


「なんなら、僕らの関係も白紙に戻します?」


関係、という単語は当然のようにただ一つの事実をさすわけではない。

複数に絡み合った糸。

容易には解けることのない、憎しみと偽りの連鎖。

これがもし、消えることがあるとすれば。


「そうだな、そうすればこんな戦争は起きなかった」


クルーゼの言葉に、アズラエルは楽しげに笑ってみせた。


「――さぁ、どうでしょうね?」


瞳の奥にある狂気。

その瞳が目指すものを、その愚かさを、強さを、クルーゼは知っている。





「それでも別に、構わなかったがな……」





半ば反射的に呟かれた言葉に、アズラエルは聞かなかったフリをした。





    いきなりアズラエル。
    でもごめん!すごい楽しかった。
    色々意味はあるんだが書ききれてない感が(汗)
    関係はもちろん、あれこれね。(爆)