11.答え




憎しみの始まりはいつだって突然で



教育と名のついた刷込みの日々に、疑問を持たなかったわけではない。
けれど、それはどれも『当然』のことであり。
疑問を挟むことすら、本来は許されていなかった。


だから知らなかったんだ。

自分にあんな感情があるなんて。




「初めまして、僕はムウ。ムウ・ラ・フラガ」


差し出された小さな手のひら。

満面の笑みを浮かべる顔は、自分と、そしてあの男とよく似ている。



――ああ、そうか。


確信した。


――お前が、私の。



伝わるあたたかなぬくもりを振り払いたかった。

触れるなと。

お前などが触れるなと。




何も知らない無垢な笑顔を踏みにじりたいと思った。



なぜ私はここにいる。

なぜお前が――。


「僕たち、そっくりだね。兄弟みたいだ」

何も知らないくせに。

「……どうかした?」

何も知らずに笑っていて。

「具合悪いの? 大丈夫?」

お前などが。



「――ごめん、大丈夫だよ」


笑う。
笑みを返される。
よかった、と笑う。


――お前などに何がわかる。





こんな自分を、自分は知らない。

いつだって自分は、目の前にある『それ』だけをただただこなし吸収しなければならなくて。

それが当然だと『知って』いた。

誰に教わるでもなく、そうならなければならないのだということを。


けれど。



――この感情は何だ。




どうして私がここにいる?
どうしてお前がここにいる?



わからない。
わからない。


何が同じだ?
何が違うという?



なぜ、私が生まれた?
なぜ、生まれなければならなかった?



ずっと知りたかった。
教えて欲しかった。

誰でもない『誰か』に。







――なぁ、お前ならわかるのか?
――私は一体、『誰』だ?















「そんなの、わからなくちゃならないのか?」

ふいに聴こえた声。

「お前が誰とか、俺が誰とか、そんなの最初から決まってたのか?」

どこかで覚えのあるような。

「お前がこうやってここにいるのは、『お前』が『お前』だからだろう?」

それは甘い。
とても甘い考えだ。

なのに。

「本当の『答え』なんて、俺にだってわかんねーよ」

そうだ、本当に。
何も知らないくせに、偉そうな口ばかりを利く。

「けど、俺は」

包まれるぬくもりは、あの日のものと変わらない。

「それでもお前が、――『お前』がいい」


――お前しかいらない。
――他のものなどいらない。




ああ、と思う。

ここでお前を殺せたら、私はどれほど幸せだろう。

こんな私を、お前は知っているか、ムウ?





    微妙に子フラクル。
    本編と重ねてみたり。
    ムウは、まだ何も知らない。
    
    全てを抱え、全てを憎み、全てを滅ぼす。
    ホント切ないよな、この人。