秘密




――君を好きになればなるほど「好き」と云えなくて。



「ねぇ」

「……何だ」

顔を上げずに一瞥する。

その真っ直ぐな瞳が、僕はとても気に入っていた。

大嫌いだったけれど。

「好きだよ」

告げると、胡乱げな目で睨まれて。

それ以上、何も云うことはないのだけど。

でも。

いつからだろう。

その瞳が僕を映すたび、僕は苛立って。

その瞳が僕に向いていないと、苛立ちは更なるものになり。

好きだという言葉を口にすることに戸惑いを覚えるようになったのは。



だから今は何も云わないよ。

君が辛いとき、隣で微笑むことを許してくれるのなら。



「ねぇ」

「……」

言葉も視線も返ってはこない。

けど、その意識は確かに僕に向いていて。

それだけは、はっきりとわかる。



だから嬉しくて。


『好きだよ』


今はまだ、云わない。