farewell




今でもあいつの、泣くように叫ぶ声が耳にこびりついて離れない。






気付けば目の前は光の洪水。
そういえばこんなのに当たるなんて初めてのことだ。
これは貴重な経験だ――などと適当なことを考えながら、かろうじて映る画面から背後の艦を窺う。
――宇宙から地球、そして宇宙。
砂の大地、広大な海、平和の国、北の牢獄を経て再び空へと上った艦。
大丈夫だ、彼らは。
どうか立ち止まらず、前へ前へ進んでくれと、未来を望む少年たちへ祈る。



困ったような笑顔が頭の中をよぎる。
彼女はきっと泣くだろう。
ああ見えて強い女性ではあるけれど、根は本当に優しくてどこかとても脆い。
それでもどうかこれを乗り越えて未来へと繋いでくれと願うのは身勝手かもしれないけれど。








――あいつは云った。

人は自らの業によって滅びると。

自分とは違う他者を妬み、憎み、殺し合い、人はそうして滅んでゆくのだと。


人の望みままに戦火は広がり、そして争うものたちは消えていく。

なるほどそれで戦争は終わるかもしれない。

最後には誰もいなくなり、人は救われるかもしれない。


けれど、ならばお前はどうやって救われるというんだ?




人を憎み、世界を憎み、自分自身をも憎んだお前は、

滅びゆく世界を嘲笑いながら何の救いもなく死んでいくのか?







あぁ、せめて。

せめて俺の手でお前を殺してやりたかった。

これは俺の傲慢かもしれない。

けれど、今俺は確かにそう思う。






守りたい者を、守るべき者を守って死ぬ。

この結末に悔いはないはずなのに。



どうしてだろう、

この世界にお前だけを残していくことがこんなに悔やまれてならない。







なあ、クルーゼ。

お前はきっと、泣きもしないのだろうな。

俺が死んでも、お前が死んでも。










ああ、光が見える。




お前にとって、世界は醜く救いがたいものなのだろうけれど。

俺にとってこの世界は、それでも美しく失いがたいものだったと思うよ。


お前にはなかったか?

たったひとつでも、ほんの欠片でも、心の底から何かを美しいと思った瞬間が。

強く強く、何かを残したいと願い、祈ったことが。







遅かれ早かれ、お前は死ぬだろう。

遠くない未来に。



そのときは、俺のところに来い。

そうしたら今度はきっと、見せてやるから。

何よりも綺麗なものを。


お前が思うよりもっとたくさんの、美しいものを。






ムウ・ラ・フラガ追悼小説。
むしろ語り。
一時フリーにしてました。