contact 私用のために降りた中立国のコロニーで、男はざわつく気配に目を細めた。 周囲の雑踏はごくありふれたもので、それこそに違和感があると気付いているものはどれほどいるだろう。 感じたことのない不思議な感覚に、しかし男は何事もなかったかのように歩き出す。 人ごみに紛れても自然と視線を集めるのは、彼のウェーブのかかった鮮やかな金髪だけではなく、その佇まいそのものだと、 彼はまだよく理解してはいない。 補給のために降りた中立国のコロニーで、男はふいに顔を上げた。 周囲の人々は休日を楽しむように慌しく入れ替わり、子供たちははしゃぎながら両親に手を引かれている。 微笑ましい光景にいくらか安心し、男はそんな人ごみを縫うように歩き出した。 人好きのする整った顔立ち、快活そうな雰囲気、それらが彼自身を引き立てているのだと、彼はよく知っていた。 不可思議な感覚を追ってたどり着いた先にいたのは、一人の男だった。 男は何かを探す風なそぶりを見せていたが、しばらくして横道に逸れた。 その瞬間、わずかに見えた横顔に、ラウはゆっくりと目を瞠った。 男は静かな裏通りを、どこへ行くでもなくさまよっているようだった。 喧騒が遠ざかり、意識を集中させれば雑音は自然とカットされる。 男は足を止めた。 ラウは、立ち上る殺気を抑えることなく、男に銃を向けた。 ――誰かいる。 何気なく入った横道で、ムウは速度を緩めないまま静かに舌打ちをした。 初めこそは気配を絶っていたようだが、大通りからだいぶ離れ、その場を静寂が支配し始めたころから相手は殺気を隠すことを やめたらしい。 ――いる。 ――すぐ、そこに。 気持ちが悪いような心地が良いような、初めての感覚にムウは思わず足を止めた。 このまま振り切ることも不可能ではないが、しかし成功する可能性もかなり低い。 ならば直接対決しかないだろうと考えたのは、その音が聞こえる前だったか後だったか。 軍に入ってからは嫌になるほど聞きなれた音が背後で響き、ムウは反射的に両手を顔の横まで上げた。 ――おいおい、ここは中立国だぜ? ――俺は民間人としてここに来ているだけであって、ここらは軍事施設でもザフトの息のかかった場所でもない、ただの裏路地 のはずじゃなかったのか……? 思わずそんな軽口を叩きそうになったが、相手の様子に冗談が通じる風でもなかったので、あえて心の中で呟くにとどめて おいた。 相手は緊張を緩めることもなく、じっとムウを見つめているようだった。 しばらくの沈黙の後、男はおもむろに口を開く。 「名は?」 「――ムウ・ラ・フラガ」 「良い名前だな」 高すぎず低すぎず、耳に心地良い声をムウは意外な思いで聞いた。 「……そういうあんたはどうなんだよ?」 首だけ振り返ると、男は依然こちらに銃を向けていた。 だが、発砲する気はないらしい。 男の顔は、逆光で見えない。けれどかえってその立ち姿ははっきりと浮かび上がっていて。 こんな細身の人間が軍人をやっていられるのかと疑問には思ったが、相手はおそらくコーディネイターだ、特に能力面において こちらの『常識』は通用しない。 「ラウ・ル・クルーゼだ」 「どっちも似たようなもんだろうが」 男は静かに苦笑した。 そうして、ゆっくりと銃を下ろすとムウに背を向けた。 「お前とはいつか戦場でまみえたいものだな、ムウ」 「――俺はご免だね」 そうして彼らは知る。 戦場で。 自らの宿命の敵に出会うことを。 |