愛しき人よ 2


信じられない信じられない信じられない。
何がだって?
そんなものは決まってる。
だって、何をどうしたら初対面の相手と交際することになるというんだ?
その場にいた人間を意中の相手と思いこんで確認もなしに告白した方はそりゃあ抜けているが、そんな勘違いからきた告白をすんなりと受け入れる方もどうにかしている。
しかも、なんだ?
告白した方も、告白された方も、どちらも男だなんて、そんなの笑い話にもならない。
そもそも、なぜその場ですぐに告白を訂正しない?
なぜ男からの告白を拒否しない?
なあ。
……なにかが猛烈に間違っているような気がしないのか?


「……だから、キラっ!」
「うるさいなあ。いい加減にしてよ、アスラン」
「いい加減も何もないだろう!? オレはお前を思って――」
「だから、アスランには関係ないだろう? 僕はクルーゼさんに告白して、クルーゼさんも頷いてくれた。それで充分じゃないか」
「それの、そもそもの前提が間違っているというんだ。いいか、もう一度聞くぞ? お前はあの日、フレイ・アルスターに告白しようとしたんだよな?」
「そうだよ、フレイに手紙を渡して、あの裏庭に呼んだんだ」
「けれど裏庭にはフレイはいなかったんだよな?」
「うん。フレイはいなかったけど、クルーゼさんがいた」
「そうしてお前は、その場にいたクルーゼさんをフレイと間違えて告白した」
「うん。それでクルーゼさんは頷いてくれたんだ」
「……そうじゃないだろう?」
「え?」
「お前の告白は、フレイ・アルスターがあの場にいなかったという時点で無効になったんじゃないのか?」
「でも、告白はしたよ?」
「告白はしても、その相手はフレイじゃない。……キラ、現実をきちんと見ろ。お前はフレイに振られたんだ」
「……うん」
「お前は、振られたという現実を見るのが嫌で、その場のノリで頷いてしまった人間を新しい恋人だと思いこんでいるだけなんだ」
「……」
「今のお前は、ただ単に嫌な現実から逃げているだけなんだ。それはちゃんとしたお前の現実じゃない。わかるな?」
「……」
「……キラ?」
「…………ちがう」
「え?」
「違うよ、クルーゼさんはノリで頷くような人じゃないっ!」


……ちょっと待て。
問題はそこじゃないだろう、キラ!?


「あ、クルーゼさんからメールだ」
「メール!? お前、いつの間に?」
「初めて逢ったときだよ。付き合うなら連絡先くらい知ってなきゃって。メールはそんなにたくさんじゃないけど、夜はいっつも電話してるし」
「……」
「わ、やった! 聞いてよアスラン、今日一緒に帰れるって!」
「一緒に帰る!?」
「クルーゼさん、いつも忙しいからなかなか時間が合わなかったんだけど、今日は休講になった授業があるから会えるって!」
「……」
「校門の前で待っててくれるって、クルーゼさん!」
「……」
「アスラン?」
「……キラ……」
「なに?」
「いや、もういいや。……お幸せにな」
「うん!」


キラは知らない。
あの人、ラウ・ル・クルーゼがどんな人間かということを。
知らないから、そうやって笑っていられるんだ。
きっと、そうだ。