街角に響く高らかな歌声。 振り返る者、聞き流す者、気づかぬまま過ぎゆく者。 様々な人の様子をぼんやりと眺めながら、 彼は雑踏の中何をするでもなく腕を組んで立ち尽くしていた。 音は形作る。 聖なる夜に捧げる歌を。 どこかに存在しえるかもしれないかの者への歓迎の歌を。 誰に強制されるでもなく、ただ自由に。 望むままに。 人は歌う。 ――幸せがくるように ――跪いて さぁ お祈りしましょう 祈るだけで何ができる。 捧げられた祈りを、誰がどうやってすくいあげどこへ届けるというのか。 その行く末を、知る者などどこにいる。 彼は信じない。 神も、祈りも――託された想いすらも。 信じるものは自身のみ。 自ら目にし、耳にし、手にしたもの。 不確定な要素を受け入れることなどすまいと、思っていた。 ――思っていた、のに。 ならばなぜ、自分は今ここにいるのだろう。 一体誰を何を待っているのだろう。 この名もなき群衆の中で。 ただただ彷徨うように流れゆくように身を任せ。 誰を待つ? 何を待つ? 決してここで逢うことはない誰かの名を、口にすることはない。 けれど、ふと。 例えばもしここでお前に逢ったのなら、と柄にもなく思う。 『お前が好きだ』 否定も肯定もしない。 受け入れるわけでも、拒絶するわけでもない。 それでも。 『いいんだよ、俺は好きだから』 その言葉を、いつしか心に留め置くようになっていた、と。 知るものはいない。 どんよりと曇った白い空。 鋭く切りつけるような風。 人々が俯きがちに、けれど楽しげに行き交う中で。 けれど彼は、誰かを待ちながら誰とも逢わぬまま踵を返した。 今はまだ、もう少し。 叶うのならば、このまま――。 |