――ご覧 ラウ ――これが『お前の』世界だよ 『世界』? こんな 汚くて醜い どす黒いものが渦巻いている これが『世界』? こんな世界に ぼくは生まれたというの そう そうなんだ そのためにぼくが生まれたというのなら なら こんな世界はいらない 「きみはだれ?」 君こそ誰? 思ったけれど、口には出さない。 すると彼は、自分の失態に気付いたようで。 「あ、ごめん。僕の名前はムウ。M-W-U、ムウだよ」 「……ぼくはラウ。R-A-W-W」 彼はじっと見つめる。 「君と僕は似ているね」 何が、とは訊かない。 似ている。 当然だろう。 思うけれど、云わない。 手が触れる。 髪に、頬に、首に、肩に。 同じ大きさの手に。 「似ているね、とても」 同じものから生まれた。 違う方法で生まれた。 偉大だという『自然の摂理』。 それに従って生まれたもの。 それに逆らって生まれたもの。 それのどこが同じだという。 これのどこが違うという。 これほどに近くて。 そして遠い存在を前に。 思い、そして問う。 「きみは、『世界』が美しいと思う?」 彼はただ見つめていた。 迷うような目をしながら。 「父さんと母さんが優しいときは、うれしい」 笑う。 「うれしいと、世界が綺麗にみえる」 泣きそうに笑う。 「でも、父さんは僕が嫌いだから」 そのとき気付いた。 ――彼は、知っていた? 「君は、父さんに愛されているんだろう?」 違う、と云おうとした。 ――『何』を? ――『なぜ』? こんな『世界』ならいらない こんな 汚れた 醜い 混沌としたモノ いらない いらない けれど きみと一緒なら 何か見えるものがあるだろうか 『何か』が欠けていて 『何か』を求めて そうして掴めるものがあるのだろうか 『世界』なんていらない 本当に欲しいものは きっと ただひとつだったのに |