夢風船
ふわり ふわり
どこまでいくの どうしていくの
どこまでいけるの なぜいくの
それはほんの偶然の一瞬。
小さな子供の手から離れたそれを何気なく目で追っていただけのことで。
青い青い空に、赤い赤い丸いもの。
ふわりふわりと浮いていて。
高く高くのぼっていく。
定められた方向へ向かうわけでも、何か目指すものがあるわけでもなく。
風がこちらから吹けばそちらの方へ。
風があちらから吹けばこちらの方へ。
流されるように。
意思を持たぬように。
けれど、それこそが意思であるかのように。
別に好きだとかそういうんじゃない。
ただ目についただけ。
それだけだった。
「……どうした、ラウ?」
半歩前を歩いていたムウが振り返る。
ざあ、っと風が吹く。
あ、と思った。
ぼんやりと何かを見続けるラウの視線を追って、ムウも空を見上げた。
青い空に。
白い雲に。
赤いもの。
「欲しいのか?」
視線を下ろしてムウを見つめると、ムウは少し前を指差した。
何件か先の店。
客寄せのため、店頭で子供に風船を配っている。
先刻の赤。
反対の青。
雲色の白。
太陽の黄。
自然の緑。
笑顔を振りまく女性の手からそれを受け取った子供たちは楽しげに笑っていた。
大人たちはそんな子供を微笑ましく見守っていた。
「もらってきてやろうか?」
その言葉に、ラウはじっとムウを見つめる。
そうしてしばらくして、下を向いた。
ゆっくりと、首を横に振る。
何もいらない。
何かが欲しいわけじゃない。
顔を上げないまま、ラウはそろりと手を伸ばす。
小さな手で、ムウの服の袖を掴んだ。
それを見て、ムウはラウに訊くのをやめた。
どうかしたの? なんて。
しつこく訊くと、ラウは話をしてくれなくなるから。
友達とケンカしたときより、
かあさんに怒られたときより、
ラウが話をしてくれなくなったときが一番悲しい。
だからムウは、ラウが掴んだのと違う手でラウの頭をぽんぽんと叩いた。
その手を、ラウみたいに伸ばす。
「帰るか」
こくり、とラウは頷いて。
掴む手を、服からムウの手に変えた。
ふわり ふわり
どこまでいこうか どうしていこうか
きみといっしょに いつまできみと