I am a Cat.


僕は猫らしい。
名は、セイラン。

けれどそんなことはどうだっていいと僕は思っている。
僕が猫であってもセイランという名でも、何で誰であったとしても。
きっと猫でなくとも僕は僕で、セイランという名でなくともそれは変わらないと思うから。
だから、僕を抱く腕が誰のものであろうと、僕の暮らす家がどこであろうと、関係のないことなのだと。
――ずっと、そう思っていた。


「あ、セイランさんダメですよっ」

前足でいじっていたタオルを取り上げられて、僕は思わずむっとした。
このタオルはふかふかでとても気に入っていたのに。

「もう、またボロボロになってるじゃないですか……」

家主であるランディに云わせると、僕がいじるものはいつも最後にはいじりすぎてボロボロになるから困る、ということらしいが、そんなのは僕が知ったことじゃない。
僕だって何でもかんでもいじるわけじゃないし、余程気に入ったものでない限り繰り返し触れるなんてことはしない。
僕の気に入ったものを僕が満足するまで与えてくれればそれ以上のことはしないのだと、なぜ彼はわからないのだろうか。
少なくとも、彼の前の僕の主人2人はそれをわかっていたようだったのに。

「あれ、セイランさん?」

ランディの手の中にあるタオルへの興味は失せた。
何か面白いものはないだろうかと、僕は部屋の中へ視線を走らせるが、既に慣れた部屋の中には新たに興味を持てるようなものはなく。
ふと窓の外に目を向ける。
今日は天気がいいから、きっと風が心地良いだろう。
そんな風に思って、窓に近付いて空を見上げている。
と。

「セイランさん……外、出たいんですか?」

この窓の向こうにはベランダがある。
小さなベランダで、仕切りはあるけれど隣の家とも繋がっている。
仕切りやベランダの壁の下の方が開いているため、隣の家のベランダや家の外が見えるのを僕はこっそり気に入っていた。
しかも実は、僕くらいの大きさだとその隙間をくぐり抜けることもできない話ではなかったりする。まだ、やったことはないけれど。
それを知ってか知らずか、ランディは僕が通れる程度に窓を開けるとにっこり笑った。

「開けときますから、暗くなる前に帰ってきてくださいね」

例え2階の窓であっても開け放しておくなんて無用心極まりないが、彼はそういったことには無頓着らしい。
元々盗られるものなどないといえば確かにそうなのだけれど、まさか世の人間全てが善人だと思っているわけでもないだろうに、能天気なものだと思う。
……尤も、常にぎらぎらと目を光らせて他人を疑うような人間に比べたら数段マシだとは思うのだけれど。

「気をつけて、いってらっしゃい」

この狭いベランダで何に気をつけろというのか。
きっとランディは、僕がベランダから戻ってきたらこう云って笑うのだろう。
おかえりなさい、と。
心の底から嬉しそうに。