I am a Cat.


私は猫というものだ。
名を、ラウという。

私の前には今、人間の男が1人。
けれど、私を名付けたのはこの男ではない。
このムウという名の男はある夜に私を見つけ、お節介にも自宅へと連れ帰り、どういうわけか私の身体を洗い食べるものを与えてきた。

静かな部屋、温かなミルク、頭を撫でてくる指先。
何一つ、今までと変わらないというのに。
それでも、なぜか違うと感じるのは、この男のせいなのだろうか。


『ラウ』

呼んでいる。
呼ばれている。

『ラウ』

低く冷たい声。
差し伸べられた手に身を任せるだけで、いつも全てが充分に終わっていった。
例え、その目が見ているものが自分の白い毛皮であり青い瞳であり耳であり足であり尻尾であったとしても。
例え、選ばれたのは自分だからでなく、自分しかいなかったからであったとしても。
庇護の手を拒めるほどに自分は大きくはなかったし、元よりそんなことを考えてすらいなかった。
ただ、何も求めず、与えられるままに過ごせばそれで良いのだと。
それだけを知っていた。
それだけしか知らなかった。


「ラウ」

近くて遠い声。
包み込まれる、あたたかなもの。
ふわふわとしたもの。

「ラウ、起きたのか?」

何もなかったのに。
柔らかな白いものから、身体がふわりと浮いて。
目の前には、空の色と太陽の色。
真っ直ぐに、ただ、私だけを見ているもの。

「ん? どうした、腹減ってきたか?」

硬い手のひらは、なぜかそれでも温かくて。
指先に顔を摺り寄せて、私はもう一度目を閉じた。