君に出会うまで


空がこんなに広いものだなんて知らなかった。
地面を踏みしめるたび、押し返される感覚がするなんて知らなかった。
見上げる全てのものが何かしらの圧力を加えてくるような感じさえして。
けれど、それを嫌なものだと思わないのが不思議だった。
同じように圧迫感を感じたとしても、あの天井とこの空は違う。
それがとても不思議で。
けれど決して、嫌だとは思わなかった。

どうしてここにいるのだろう、と思う。
それはいつものことで。
今ここにいてさえも、同じようにそう思っていて。
なのにどうして今は、それだけで終わらないのだろう。
ここにいて、そしてさらに先へ、と、そう思ってしまうのだろう。

どうして。どうして。

問うこともできず問える相手もいない。
ただ気の向くままに進む。
かつてできなかったことをこうやって事もなげにできることが不思議で仕方ない。

それでも、なぜ。

軽かったはずの身体が重くて。
足どころか尻尾も満足に動かせなくて。
もう、目を開けることすらも容易にできないのに。

どうして、こんなにも心地が良いと感じるのだろう。

『生きてる……』

生きている。
そうか、自分は生きていたのか。
自分がそこにいるというこれを、生きているというのか。
今になってやっと実感する。
そうだ、自分は生きていた。

『R、A…W…W……ラ、ウ?』

誰かが呼ぶ。

『ラウ? お前、ラウっていうのか?』

呼び続ける。
名を。
そのたったひとつの名を。


私の、名を――。