君と一緒に


「ただいまー」

玄関から響く間延びしたハボックさんの声を聞きつけたロイが妙に軽い足取りで玄関までやってくるのを見て、ハボックさんは小さく溜息をつきました。
いつもは、食事のときや暇なとき以外は呼んでも振り返らないようなロイが、帰宅したハボックさんの元に自発的にやってくるようになったのはごく最近のことです。

「あーちょっと待ってくださいねー」

そうしてがさごそとバッグを漁ったハボックさんが取り出したのは、猫用のオモチャのボールでした。
ハボックさんがまあるいボールをぽんっと放ると、ロイは夢中になってそれに飛びつきました。
まるでつい今までそこにいたハボックさんなど目に入っていないかのように、ロイはただボールだけを追っていました。

ロイを拾ってから、職場の色々な人に声をかけて飼い主になってくれる人を探していたハボックさんでしたが、思ったように飼い主候補は見つかりませんでした。
それよりも、なぜかハボックさんが猫を飼い始めたという事実が先走って定着しつつあるようで。
ハボックさんは散々否定したのですが、妙に気のいい職場の仲間たちは、猫の飼い方を伝授してくれたり猫にいいエサを教えてくれたり猫のためのオモチャをわざわざくれたりと、ハボックさんと猫のために色々してくれていました。
今日、ハボックさんが持ち帰ったオモチャもそのひとつです。

『少尉、よかったらこれ使いませんかね?』
『……なんだコレ。ボール?』
『猫用のオモチャです。前に飼ってた猫のために買ったんですけど、今はもう使ってないんで』
『あのさ、何度も云うけどウチの猫は俺のじゃなくてだな――』
『え、よかったじゃないですかハボック少尉。きっと猫も喜びますよ』
『だっからそうじゃなくて……!』

結局、押しつけられるようにそれを受け取ってしまったハボックさんでした。
人からもらったものを捨てられるようなタイプではないので、もらったボールはそのまま持ち帰ってロイのオモチャとになったのです。

このように、ハボックさんのロイの飼い主探しは思うようにいかず、ロイはロイで勝手に生活に馴染んでいるようで。
ふと、そういえば隣の家の住人が以前に迷い猫の飼い主を探していたことをハボックさんは思い出しました。
貼られていたポスターが数日後には剥がされていたので、おそらくは飼い主が見つかったのでしょう。
ウチなんてこんなんだもんなぁ、とハボックさんは、新しいオモチャに夢中になってじゃれついているロイを横目に溜息をつきました。


こんな風に、相も変わらず1人と1匹は生活を続けているようです。