I am a Cat.


私は猫だ。
名はロイ・マスタング。
地位は大佐だ。

私は今、ジャン・ハボックとかいう男の家にいる。
奴は軍人で、地位は少尉。
いつもぼんやりしているというか適当というか、何を考えているかわからない男だ。
それほど良いものを食わされているわけではないが、食事はきちんと出るし部屋はそれなりに綺麗だしで、生活はそこそこ快適だと思う。
そもそもなぜ私がこんなところにいるのかということは置いておくとして、もうしばらくはいてやってもいいと思わないでもない。
そんなところだ。

「ただいまー」

ハボックが帰ってきた。
手にした袋をテーブルの上に置いたときに響く聞き慣れた音に私が顔を上げると、奴は感心したような顔でこちらを見下ろしていた。
近寄ってみると、抱きあげられてテーブルの上に下ろされた。
奴が袋から出したものは、案の定私の食料で。

「えーっと、魚肉入りのでいいんスよね?」

缶の側面に描かれた絵を差して奴は聞いてくるが、私にとって重要なのはそれではなく中身だ。
前に食べた、野菜たっぷりとかいうのはいけない。
栄養素がどうだとか奴は云っていたが、ぱさぱさしてて食べにくいうえに味も良くない。
あのときはハボックが散々拝み倒してくるので仕方なく食べきってやったが、金輪際食ってやるものかと思っている。

「ったく、アンタはどうしてこうワガママなんですか」

なにやらぶつくさと云っているが、この際そんなことは無視だ。
早く空けろと目で催促すると、奴はしぶしぶと缶切りを持ち出した。

「俺だってそんなに給料ない……こともないですけど、余裕があるっつーわけじゃないんスからね」

余裕がないわけがないだろう。
ある程度の収入があるという以上に、住んでいるのがこんなボロいアパートで着るものも食べるものも安物、さらに恋人もすらいないというこの現状が、どうやって給料を圧迫するというのか。
どうせ使わない金だ、私のために多少使っても問題はなかろう。

「……ってぺろりと平らげるし」

空になった皿に、昨日の残りのカレーを食べていたハボックが自分の手元と見比べて溜息をつく。
いちいち作るのは面倒だからと手を抜いたのは奴であって私ではないので文句を云われる筋合いはない。

「あーもう、早く見つかんねーかな新しい飼い主……」

奴は職場の人間などに当たって私の新たな飼い主を探しているようだが、どうやら適当なのがなかなか見つからないらしい。
どうも奴は私を早急にどこかへやってしまいたいらしいが、実のところ私としてはまあ今のこの状況にさほど文句があるわけではないのでこのままでも構わないと思っていたりする。

「アンタも、ちゃんと可愛がってくれるヒトんとこ行きたいでしょうに」

……そうやって、まず私の心配をしているから飼い主が見つからないのではないのだろうか。
大雑把に見えて変なところで基本的に几帳面な男は、こういうところが不器用なのだと思う。
けれど、私がわざわざ指摘してやることもないだろうと、私は奴に背を向けて自分の寝床へと潜りこんだ。