12月24日 PM6:00


街はどこを見てもクリスマス一色だった。
休日ということもあり、駅前は人でごった返していた。きらきらと 輝く飾り、聴き飽くほどのクリスマスソング、どこからか漂う甘い香り。
まとめてそこにあるそれらのものたちは、これから迎える聖夜を美しく飾 ることだろう。その中をすり抜けてひとり進むムウを少々寂しいような気 にさせるほどに。
早く家に帰って熱いコーヒーでも飲もうと思い、ムウは足を早めた。
駅前の広場に設置されたクリスマスツリーは、期間限定の待ち合わせのメ ッカとなっており、特に若い男女であふれかえっている。
みな一様に期待に満ちた表情をしている中、ムウはふいにひとりの少年と 目が合った。
気づいた、のではなく、そのときには既に視線が交わっていた。
互いに引き寄せられたかのようなタイミングのよさに、ムウだけでなくその 少年も軽く目を瞠っていて。
広場の隅、最も車道に近い場所で喧騒を避けるかのように佇んでいた少年は 、ラウに良く似た淡い金の髪と蒼い瞳をもっていて。黒のコートに、彼の金 髪と白い肌はよく映えた。
しかし、彼の顔はわずかに青ざめているようにも見えて、ムウは密かに眉を寄 せた。この寒い中、少年はどれほどの時間ここに立っていたのだろう。誰か を待っているのか否かは定かではないが、その時間が数分やそこらのものではない だろうことは安易に予想できて、ムウは思わずその少年の方に足を向けた。
どんな事情があるにせよ、この少年をこれ以上この場にいさせてはならない と、そう思ったから。



レイと名乗ったその少年は、ムウの予想通り1時間近くもあの場所に立っていたのだという。
待っている相手に連絡をとれなかったのかとムウが尋ねるも、レイは首を横に振るばかりで。
どうやら、彼が待っていたのは彼の保護者が用意した迎えの車らしく、保護者からはそ こで待っていろという以外の指示を受けていなかったために、彼はあの場から動くこと ができなかったのだという。
それにしてももっと上手く立ち回れないものかと、ムウは小さく溜息をついて少年を見やる。
このレイという少年は、話を聞く限りではたいそう生真面目そうな子どもで。だから こそ、途中で帰ることもどこかで適当に時間をつぶすこともせずにあの場でひたすら に待っていたのだろう。
「とにかく、ウチに着いたらその保護者に連絡とってみろよ。なにか手違いがあっ たのかもしれないしさ」
身体の冷えきった少年をあの場に置いていくことなどできるはずもなく、ムウは彼を 自分の部屋へと誘ったのだった。
レイは最初こそは怪しんでいたようだったけれど、やはり寒さには耐えきれなかっ たのか、渋々といった風にムウの誘いに応じてくれた。
自らの部屋に帰る道すがら、ムウはひたすらレイに話しかけた。レイは多くを語るこ とはなかったけれど、だからこそムウはレイを口先だけで丸め込んでここまで連れ出 すことができたのだけれど。
レイはムウの言葉にこくりと頷くも、次の瞬間に小さくくしゃみをした。
口元に触れ た指先が痛いほどに赤く染まっているのを目に留め、ムウは家に着いたらとにかく レイを一番に風呂に入れてやろうと心に決めた。





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