白き光の向こうから、金色の光が一筋差しこんでくるのを、ただぼんやりと見つめていた。
死後の世界などというものは信じてはいなかったが、きっとここがそうなのだとなぜか思 っていた。理由などはわからない。ただ、今までは意に介さなかったことさえもここで はありえるのだろうと、そのように考えていた。
小さかった金の光は徐々にふくらみ、それが人の形だとわかるのにそう時間はかから なかった。金の髪をもつその存在は子どもの姿をしていて、子どもはあどけない表 情でこちらを見つめていた。
太古より絵師たちが好んで描く天よりの使いも、確かこのような色の髪を持ってい たのではなかったか。
やわらかな光に包まれ、手を差し伸ばすその姿はまさに神に造られし存在そのもの で。もしかしたらこれは本当に、自分を迎えに来たのかもしれない、とそんなこと さえ考えていた。
けれど、その天使の顔を見て愕然とした。
これは天からの使いなのか。
それとも死神の手のものか。
私の――かつての私と同じ顔をしたこの存在は。
嘘だ、と呟いた。
今になってどうしてお前が私の前に現れるというのか。お前は私が殺したという のに。愚かな人間たちと共に炎に紛れ消えていったはずではなかったのか。
そうだ、お前から全ては始まったのだ。
人間たちの生み出したくだらない技術、それを足がかりにしてどうして神のよう に生き続けられるという。
くだらない欲にかられ、神になろうとした愚かな人間を知っている。
ヒトは所詮ヒトにしかなりえないというのに。どれほどに技術が発達しよ うと、ヒトが永遠を手に入れることなど夢物語でしかないというのに。
愚かな人間。愚かな男。その手より生まれた、愚かな存在を知っている。
そうだ、私はお前より生まれたのだ。驕った救いがたい人間より生まれ出でた、欠陥だ らけの存在。
できそこないの、己のみで生きることの叶わない無力な人間。
そんなものをなぜ造った。
お前が私を造ったというのなら。お前が私を造り、育て、捨てたのだというのなら。
そうだ、お前がいたから。
――お前さえ、いなければ。


いつかどこかで見た金の髪の子どもの顔が歪む。
きりきりと力を入れる指先が白く色を変えるのをぼんやりと眺めていた。
子どもはただこちらを見つめていて、その目にはなんの色もないように思えた。
そうなのだと、思っていた。


うつろな目が閉じられようとしたその瞬間のわずかな微笑みを見るまでは。