その隣に ――『レイラウ兄弟物語』後日談――



「アルバイトの方はどうだ?」

 ラウの問いかけは突然だった。
 一瞬本気で意味がわからなかったレイは、野菜炒めに伸ばしかけた手を3秒ほど止め、そうしてようやくその意味を悟った。

「……ええ、順調です。店のみなさんもいい人で」
「そうか」

 驚いたのは、ラウがレイのアルバイトの話題を出してきたのが初めてのことだったからだ。
 ラウの家にとやってきて、レイは通っていた高校を辞めた。
 そうして今は、アルバイトをしながら大検を受けるための勉強をしている。
 バイト代は大学の入学金と授業料にあてることになっていた。レイとしては、本当は生活費としていくらかはラウに渡したかったのだけれど、ラウはそれだけは頑として受け取ろうとしなかった。

 レイが成人するまではラウはレイの保護者なのだから、生活の心配はしなくていいのだとラウは云った。
 それ以外に、ラウはレイの生活について口を出すことはなかった。
 レイが自分からなにかを伝えることはあったけれど、ラウは自分からレイに対してなにかを問うことはなかった。いっそ無関心でもあるかのように。

 それなのに。

「高校を辞めてアルバイトをしているのは、やはりいけないことだと思いますか?」

 そうすると伝えたとき、ラウから返ってきたのはただ「そうか」と了承の意のみだった。
 ラウがレイの行動に関してどう考えているのか、レイには未だにわからなかった。
 ラウを疑うわけではない。けれど、不安ではないと云ってしまえば嘘になる。

「……いや?」
「え?」
「レイが決めたことだろう。さほど心配はしてない」

 今度こそレイは言葉を失った。

 心配をしていないという、その意味。
 レイになにも訊こうとしないラウの、その行動の意味とは。
 深読みなどすることもなく、ただ言葉の通りであるのなら、ラウはレイに無関心なのではなく、むしろ――。


 ようやく触れることのできたラウの一端に、レイは頬が熱くなるのを感じていた。