赤き戦士の見つめる先は 赤。それは出会った頃のあの人が着ていた色だ。 あの頃とは機構も機関も違うけれど、それでも自分たちは時を経て同じ色を身に纏った。 鏡に映る自分の姿を眺め見る。まず似合わないと思った。赤であるという重圧を持つ以外 になんの変哲もない軍服であるはずなのに。 それはコーディネイターのものであるこれを自分が着ているという感覚の不一致からくる ものなのか、それともあの人との相違を無意識に見いだそうとしているためなのか。 なんにせよ、今は違和感があってもそのうち見慣れていくことだろう。 ――あの人にも自分にも、赤は似合わない。 それでもあの人は悠然と赤を着こなしていたし、自分もこれからはこの赤を着ていくの だ。 人工の赤は人をいたく刺激する。自己主張の激しい色であるし、なにより人の身の内に流 れるものの色である。 本来自分は、目立つべきではないのだ。しかもこの服を纏うことにより行動等にかかる制限は 大きく、なにより人目につくことが多い分リスクが高い。しかしわかっていても、この地位に 伴う権限と利点はそれらを上回っていた。失う気や奪われる気は毛頭ない。リスクを伴お うと、得られるものは最大限に得ようと思うからこそ。 大人しく待つばかりではなにも手に入らない。だから動き出さねばならないのだ。 こうして動くことで手に入るものが確かにあるのだと知っている。 待っていてはなにも起こらない。一度きりの奇跡はもう自分の前に現れたのだから。 だから次は、自分が奇跡を起こす番だ。 無茶でもいい。無謀でもいい。望む世界があって、やるべきことがある。 だから自分はここにいて、この色を身に纏うのだ。 「レイ」 名を呼ばれる。振り返る。 その向こうには、自分が未来を誓った人。 この人のために在るのではなかったが、この人のためにここに在りたいと願った人。 「よく似合っているよ」 そう云って撫でてくれる、その掌は幼いときに感じたものと変わ らない。 同じように、あの人に触れられた感触もまた、この身は確かに覚えているのに。 けれどあの人はもうここにはいない。戻ってくるのかどうか、それすらもわからない。 ただそれでも、確かに繋がるものがあるのだろう。赤を纏った自分の姿に、かつてのあ の人の姿を重ねてみることは難しいことではなかった。 同じようでいて全く違うのだと再認識し、しかしそれでも同じなのだと感じるだけのこ と。 あのときのあの人がなにを見ていたのかはわかるはずもない。それは憎しみや怒りに彩ら れていたのかもしれないし、絶望や失望に染まっていたのかもしれないし、もしかしたら 一筋の光を見ていたのかもしれない。 わからない。わからないけれど、それでも、あのときの手のぬくもりを、やわらかな微 笑みを、自分は確かに覚えている。あのぬくもりは、あのあたたかさは、決して夢ではな かった。あの人の思惑がどこにあったとしても、自分が感じたものは確かにここに 残っているのだから。 だから今は、信じて進んでいこう。 求める先にあるものを。確かに求めるその心を。 そうして進んだ先にあの人がいて、昔のように微笑んでくれたらいいと思う。 もしかしたらそれが、自分の最後の望みなのかもしれない。 あの人がそれを知ったら、ただ鼻で笑うだけなのだろうけれど。 それでもレイは赤を纏い、ここにこうして立っているのだ。 |