誰も知らない


――愛していた。恋していた。


この空に手を伸ばせばあなたに届くでしょうか。
遠く遠く、どこまでも続くように見えてしかし果てのあるプラントの空に。
けれどこの空の向こうには漆黒の、深淵に繋がる闇が広がっているのだから。
光の中にあなたがいないというのなら、あの闇を探せばあなたの欠片が見つか るでしょうか。
深い深い闇を手探りで歩いていく、その先にあなたは見つかるでしょうか。
その闇はどこにありますか。それはこの空の向こうに。それは戦いの費えぬ歴史 の中に。それは戦い続ける人の中に。それはあなたを想うわたしの中に。
この深く遠い闇の中にいるあなたはただ、そこに在り続けただけだというのに。
あなたが在ってはならないと、一体誰が決めたのでしょう。あなたは確かに生 きていたのに。あなたは確かに生きていたいと叫んでいたのに。
いつかあなたがあなた自身を闇に沈めたとしても、あなたはそれでも叫んでいた のではないのですか。
それは苦しみを。それは痛みを。それは憎しみを。それは 苛立ちを。それは悲しみを。それは――悦びを。
あなたの叫びは誰かに届きましたか。遠い誰かに、近い誰かに、あなたがあな たであることを、誰が知ることができましたか。
誰も知らないあなたを、わたしは知っている。そんなわたしを、誰も知ることはない けれど。
あなたを求めることを、あなたは認めてくれますか。あなたを想うことを、あ なたは赦してくれますか。
黒い闇のさらに奥にある、真っ白な闇の中に、きっとあなたはいるのでしょう。
白い闇に目が眩み、誰にもあなたが見えずとも、わたしはあなたを見つけるで しょう。それがあなたであるならば。それがあなたであればこそ、わたしはあなた を見つけられる。
なにを失うことも厭わない。なにを捧げても構わない。


あなたであるならば。あなたであればこそ。
それは約束。それは誓い。それは祈り。
恋焦がれて、請い求めて、それでも届かぬ光はこの手から零れ落ちていく。
闇の色をしたそれは、白き闇を纏ったあなたのように。
世界の果てにあり、わたしたちに背を向けている。