Is it …


――くだらない

窓の外に広がる音のない漆黒の空間を見やり、ラウは小さく微笑んだ。
人は、世界は、なぜこれほどまでに愚かで醜いのだろう。
どれほどにくり返しても、なぜヒトは争うことをやめないのだろう。
このような争いはもう避けるべきだと、止めなければならないと、幾度叫ぼうと もヒトは争い続ける。
それは太古の昔よりヒトそのものが続けてきた業の証。
ヒトがヒトであるためには、争い続けなければならないのだろうか。他者 より強く、他者より先へ、他者より上へ――そのように考えそのために行 動する生き物は人間だけだ。自らを喰い合いながら自らの場をも失っていく と気づかぬままに、否、それと知りながらも争い続ける愚かな種族。
どれほどに光を望もうと、ヒトは闇を消し去ることはできない。ヒトがそ の闇を手放せば、ヒトはヒトではなくなってしまうのだから。
ヒトがヒトとしてそこにある以上、その闇はどこまでも奥深くヒトの中に潜 み続ける。
排除しようとも、消し去ろうとも、統制しようとも、それはヒトがヒトで ある限り失われることのないもの。
ヒトがヒトである証。ヒトの業。ヒトが望むもの。ヒトの夢。
そうやってヒトは、自らの闇に滅ぼされていく。それに気づこうとも、気 づくことがなくとも、ヒトが滅びの道を辿りゆくことは定められている。
争い、失い、嘆きながら平和を望み、いつかはと叫び、そうして手を差し 伸ばす。それはとても優しい手だろう。それはとてもあたたかな手だろう。だ が、どれほどに美しく正しくあろうとも再びヒトはその手に剣を握ることと なる。
それは自身の欲望のため。それは誰かをなにかを守るため。
ヒトは剣をとり、争いに身を投じ、そうしてまたなにかを失っていく。
過去と同じ過ちを犯し、過去と違う未来を望みながら、また同じ道を辿っていく。
それが、我らの愛しきこの世界の真実。そしてヒトのあるべき姿。
変わらないのだ、ヒトは。
いつの日も、どうあったとしても。
そうしてヒトは、今もまた愚かな道を選ぼうとしている。

「――私は人類存亡をかけた最後の防衛策として」

聴きなれた男の言葉が世界中に届く様をごく間近に見つめながら、ラウは喉の奥 で低く笑った。
瞳に強い自信を宿した男は、なにひとつ疑うことなく言葉を発し、世界を揺らす。

「デスティニープランの導入を、ここ宣言いたします」

叶わぬ現実を間近に見てきた男の、最後で最大の夢。
そうして望む自身こそがヒトの欲望そのものだということに彼は気づいてい ない。
――否、知っていたとて彼は続けるだろう。それを彼が望む限り。
やはりヒトは、どれほどの時を経てもどれほどの経験を得ても変わりはしないのだ。
別人のように変わったとされた自身とて、こうして根源では全く変わってい ないと、気づくものはここにはいないけれど。
忘れたふりなどいくらでもできる。
気づかなくとも、知らないふりをしていても、自分のみならずヒトが それを自身の身の内から消し去ることなどできないのだから。

硝子1枚を隔てた場に帝王然として座る男は、満足げに微笑み壁際に立つラウを見やる。
ラウは目を細めて彼に視線を向けると小さく肩をすくめてみせた。
常と変わらぬ、やわらかな笑みと共に。







ラウ生存パラレル
47話のあのときに