『こえ』 ある日、レイは夜中に目が覚めました。 なにかあったのかな、と思ったらノドがからからで、レイは台所に水を飲みに行きました。 その帰り、ギルとラウの部屋の前でレイはびっくりしました。 行くときは気づきませんでしたが、部屋の中からラウの苦しそうな声が聞こえるのです。 それは小さな声でしたが、今までレイは聞いたことのない声でした。 とぎれとぎれに聞こえるラウの声に、レイは怖くなってしまいました。 けれど。 「――あぁっ!」 ひときわ大きいラウの声が聞こえて、レイは慌てて部屋のドアをドンドンと叩きました。 「ラウ、ラウ!?」 ラウが苦しんでる。助けなくちゃ。 レイはいっしょうけんめいドアを叩きました。ドンドンドン、だいじょうぶ、ラウ? 何度も何度もドアを叩いてラウの名前を呼ぶと、それまでしんとしていたのに急に ドアが開いてレイは転びそうになりました。 それを受けとめてくれたのはラウで、バスローブを着たラウは部屋から出てドア を閉めるとレイの前にしゃがみました。 「どうかしたのか、レイ?」 そこにいたのはいつものラウでした。 レイは両手でラウの手をぎゅっと握りました。 「ラウ、くるしくない? いたくない?」 背伸びをするようにラウの顔を見ると、ラウはびっくりしたようにレイを見てか らにこっと笑いました。 「大丈夫だよ、レイ」 「……ほんとう?」 「ああ、私がレイに嘘をついたことがあったかい?」 「……ない」 ラウが大丈夫だと云うのなら、大丈夫なのでしょう。 だってラウはぜったいにレイにウソはつかないから。 「よかったぁ」 レイは安心して、ラウの首にぎゅっと抱きつきました。 ラウはレイの背中をぽんぽんと叩いてくれます。とくんとくん、というあ たたかい音が嬉しくて、レイは目を閉じました。 ――よかった、これならだいじょうぶ。 「レイ?」 ラウの声に、レイはラウに抱きつくのをやめるともう一度ラウを見上げました。 「ラウ、いっしょにねよ?」 レイのいないところでまたラウが苦しそうになるのは嫌だから、すごく心配だ から、一緒に寝よう、とレイが云うと、ラウは少しだけ困ったように笑いま したがレイの頭を優しくなでてくれました。 「そうだな、一緒に寝ようか」 レイとラウは手をつなぐと、一緒にレイの部屋に戻ってベッドに入りました。 ラウの隣はとても心地が良くて、レイは嬉しくなってラウの腕をぎゅっと抱 きしめたまま眠りました。 すまないな、ギル……。 離れようとしないレイに微笑みながらもラウは小さく呟きました。 ここにはいない、ギルに向けて。 そして、ラウのいなくなった部屋では、実はギルがひとり熱い身体を持て 余して(違う意味で)苦しんでいたのですけれど、やっぱり今のレイがそ んなことを知っているはずがなくて。 「ラウ……いつ戻ってくる……?」 レイとラウは、レイの部屋のベッドでとっくに夢の中へと旅立ってし ましたが、ギルはラウの「すぐ戻ってくる」という言葉を信じ一晩ラウ を待ち続けたのでした。 |