『だいすき』



ギルはレイのおとうさんで、ラウはレイのおかあさんです。
レイはギルとラウが大好きです。
だけど、なんだかたまに、ギルとラウはケンカをしているようにも見えて。
ふたりが大好きなレイは、ある日ラウに聞いてみました。
「ラウは、ギルのことすき?」
ラウは答えました。
「別に」
「えっ」
レイはびっくりしてしました。
ギルはいつもラウのことが大好きだと云っています。
でも、ラウはギルのことが嫌いだったのでしょうか。
レイはどうしよう、と思いました。
ギルとラウが大好きだから、仲良くしてほしいのに。
レイは泣きそうになってラウを見上げました。
ラウは、レイを見てびっくりしたような顔をしました。
そしてラウはしゃがむと、レイの顔をのぞきこんでにっこりと笑いました。
「……いや。私もきっと、レイと同じようにギルを想っているよ」
どういうことかわからなくて、レイはラウを見つめました。
レイと同じにギルを想っている、ということは、レイはギルが大好きだからラ ウもギルが大好き、ということなのでしょうか。
「ラウも、ギルがすき?」
ラウはにっこりと笑いました。
レイはラウの笑顔が大好きなので、嬉しくなってラウに抱きつきました。
ラウはレイをぎゅっと抱きしめてくれました。

レイはギルが大好きです。
レイはラウも大好きです。
レイの大好きなギルのことを、レイの大好きなラウも大好きなのです。
それはなんて素敵なことなのでしょう。

素敵がいっぱいで嬉しくて、レイはラウのほっぺたにキスをしました。
ラウはレイのおでこにキスをしてくれて、ふたりは顔を見合わせてくすくすと笑いました。






そのときの会話をこっそり聞いていたギルは、あとでラウに聞いてみました。
「レイのように君が私を想ってくれていると、信じていいのだね?」
期待にきらきらと目を輝かせているギルをみて、ラウは鼻で笑いました。
「さあ。『きっと』と云ったろう? 私はそう断言した覚えはないがね」
ギルはとたんにしょんぼりとして、ぼそぼそと呟きました。
「……結婚を承諾してくれたとき、君もまた私を選んでくれたのだと思って いたのだが……違うのか?」
一応ギルにも、乗り気でないラウを散々に口説いてやっと結婚にこぎつけたの だという自覚はありました。
それでもあれだけ嫌がっていた結婚を許してくれたのだから、ラウもまた自分の ことをそれなりには好きになってくれたのだと思っていたギルは、ラウの言葉 に今度こそ打ちのめされることになりました。
ラウは、今まで見たことがないほどにっこりと綺麗に笑うと、こう云いました。
「ああ。お前の財力には惹かれたからな。それに身体の相性も悪くないし、顔も いいから連れ歩くにも文句はない。――それだけだが?」


このあと、あんまり落ちこんだギルをラウがどう慰めたのかは、
ふたりだけの秘密です。





(04/05/21)