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「お前は、戻ってくるんだな?」
問うと、赤い瞳の少年は今度こそしっかりと頷いた。



彼らには時間がない。
捕虜であるステラの容態ももちろんのこと、今しがたレイとシンは仲間であ る兵士たちを倒したばかりなのだ、こちらに手を出してこなかった賢明な整 備兵がすぐに艦長に報告をするだろうことは容易に想像できる。
急げ――そう云いかけて、けれどそのとき聞こえた小さな声にレイは思わず口 をつぐんだ。

「レ、イ……」
「ステラ?」

シンがそう呼んだのを聞いていたからだろうか、か細い声でレイの名を呟い たのは、もう意識が朦朧としているはずのステラだった。
シンが慌ててステラに駆け寄ると、ステラは誰かを探すようにわずか に目をさまよわせているようだった。

「レイ、ステラが」
「……」

シンが思わずレイを振り返ると、レイは頷き軽く上げた手を横にスラ イドさせ扉が閉じぬよう時間延長のボタンを押した。
そのままステラの傍らに膝をつき、蒼白い顔をのぞきこむ。
ステラと視線を合わせ、レイははっきりと告げた。

「さよならだ、ステラ」
「いや……さよなら……」

さよならという言葉に反応したのか、ステラの身体が小さく震える。
彼女は死が怖いのだ、もしかしたら以前のようにまたパニック状態になる のではとシンの心に不安がよぎるものの、レイはごく自然にステラの頭に手をやった。

「ネオのところに帰るのだろう?」
「かえる…ネオ…」

冷たい汗により頬についた金の髪をよけてやりながらのレイの言葉に、ス テラはふっと思い出したように目を細めた。
ネオという名に反応したのだろうか、わずかだけれどステラの表情が輝い たように見えた。

「行っておいで。ネオが待ってる」
「うん」

弱々しいながらもしっかりと頷くステラに、レイはにこりと微笑みかける。
そんなレイに反応するようにステラは小さく笑みを浮かべ、シンもまた安心し たように表情を緩ませた。

一瞬の和やかな雰囲気を断ち切るようにエレベーターのブザーが鳴った。延 長時間間際、もうすぐに扉が閉まる。
慌てることもなくレイは立ち上がり、しかし素早くエレベーターを出ると反 転してシンを見やる。

「急げ、ゲートは俺が開けてやる」

思いがけないレイの言葉にシンは弾けるように顔を上げた。
エレベーターが閉まる直前、レイはシンから目を逸らしてぽつりと呟いた。

「どんな命でも、生きられるのなら生きたいだろう」

レイの零した言葉の意味を、シンは知らない。
今はただ、この弱った身体、ステラを癒せるところへ帰してやりたかった。
ここにいては、自分の力だけでは守れないのなら、ステラにとって一番いいと思われる 環境に戻すしかステラの命を救う手はないのだ。
そこに例え、彼女が再び戦うことになる可能性が少なからずあったとしても。
ステラの云う「ネオ」を信じて彼女を帰すことしか、シンの頭にはなかったのだ。