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「ネオ……?」
ベッドに張りつけにされた地球軍の捕虜である金の髪の 少女は、レイの姿をじっと見つめるとそう呟いた。



機体の整備があるからと呼び出されたシンに頼まれて医務室へとやってきたレイ は、数日前に一度入った覚えのある部屋のそれまでとは異なる状態ににわずか に眉を寄せた。
想像していたとおりとはいえ、部屋に据えられたベッドに横になってい る少女は、両手両足を固定されたまま虚ろな目でただ天井を眺めていて。
例の研究所での調査により発覚した連合のエクステンデッドの存在。アーモ リーワンでの新型MS強奪犯であるこの少女こそがそのエクステンデッドである のだという。
まだ薬が効いているのだろうか、少女――ステラは、ぼうっとした顔で天井 を見つめていたけれど、ベッドの傍らに立ったレイに気づくと不思議そうな 目を向けた。

「シンに頼まれて様子を見にきた」
「シン……」

ステラはぽつりと呟くと、また天井に目を戻す。
もしかした らシンのことを思い出しているのだろうか、再びシンの名を 口にするステラに、レイは生真面目に頷いた。

「……シン」
「そう、シンだ」

まさか返事が返ってくるとは思わなかったのか、ステラが不思議そ うな顔でレイに視線を戻す。
ぼんやりと見つめてくるその表情が、先ほどまでとどこか違うよ うに感じるも、レイはステラの様子を伺うように腰を屈めた。
ステラと視線の高さを合わせると、ステラはぱちりと目を瞬かせる。

「ネオ……」
「ネオ?」

誰かの名だろうかとレイは思うも、それ以上問い返せずに黙 っていると、ステラは嬉しそうに顔を綻ばせてその名を呼んだ。

「ネオ」
「……俺はネオじゃない」

地球軍のパイロットが呼ぶ名だ、その『ネオ』というのはやは り地球軍の軍人か、そうでなければステラの肉親か友人あたりの誰かなのだろうが、ここ でそれを問うわけにもいかず、レイはただはっきりと否定をする ことしかできなかった。

「ネオ、じゃ…ない?」
「ああ。俺はネオじゃない」

繰り返し否定すると、ステラはきょとん、とした顔で首を傾げる。
不思議そうに見上げてくるステラと自然見つめあうような形になり ながらも、レイは静かにステラの言葉を待った。

「でも、おんなじ」
「同じ?」
「うん。おんなじ、きんいろ」

ああ、とレイはやっと気づく。
そのネオという人物はレイと同じように金髪で、だからステラはレ イを見てネオを思い出したと、そういうことなのだろう。

「そうか。俺もネオも金髪なんだな」
「うん」

わかってもらえたのが嬉しかったのか、ステラはにっこりと笑って頷いた。
ネオ、金髪、そしておそらくは、ステラの大切な誰か。

「じゃあ、ステラも同じだな」
「?」

レイはそっとステラの頭に触れ、ふわりとした髪を撫でつけてやる。
小さな子どもに云い聞かせるように、ステラと視線を合わせてにこりと微笑み、

「ステラも同じ、綺麗な金色の髪だ」
「――うん!」

レイの言葉に、ステラはますます顔を輝かせて、また大きく頷いた。