mischief


「嫌いだ」

あの人はそう云った。

「私は、お前のそういうところが嫌いで仕方ないよ、レイ」

いつもと変わらない微笑を浮かべて。
けれど、その瞳の冷たさはいつも自分には向けられないはずだったもので。

わかっている。
わかっていた。

自分に、愛される資格などはない。
誰かを求め、愛することなど許されてはいない。

なにも持たず、奪うことしかしない手と。
物を認識することしか知らぬ目と。
事実のみをあらわすことしかできない口と。
なにかをかたどり、ただそこにあるだけの身体と。

そんなものしか持たぬくせに、なにかを望むなど愚かなことだ。
与えられるものが当然だなんて、思ったことはないけれど。

それでも。

「……だから、嫌だといったのだ」

呆れたような声に、もうこれが最後だと悟る。

望む瞳はこちらを向かないだろう。
伸ばした手は宙をきるだろう。
振り返っても、もうそこには誰もいないのだろう。

わかっていたことだ。
最初から。
これが結末であることなど。

けれど。

「私がお前に弱いことなど、もう知っているだろう?」

届いた言葉は、別離の言葉ではなかった。
確定されたはずの予想に反する返答の違いに、混乱する。

「妙なところで意固地にならず、素直になればよいのだよ、レイ」

わからない。
なぜこの人は今こんなことを云うのだろう。
なぜこの場から去っていかないのだろう。

なぜ、自分に向かって微笑んでいるのだろう。

わからない。
わからない、のに。
なぜ。

「だから泣くな。頼むから」

訊いたら、あなたは答えてくれるだろうか。
自分を見てくれるだろうか。
そして、笑ってくれるだろうか。

いつものように。