guard


士官室においての巨頭会談後、プラント最高評議会議長であるギルバートは、オーブ代表の少女と その随員である少年にミネルバ艦内を 案内することを提案した。


タリアに呼び出されたレイは、士官室前に並ぶ2国の代表の姿にわずかに目を細めたも のの、常と変わらぬ表情で敬礼をし、タリアとその場を交代した。
ギルバートに艦内を回るルートを指示され、頷くとレイは先導して歩きはじめる。
艦内の主だった施設を見て回り、場所ごとにレイが軽く説明はするものの、随所で立ち 止まってはギルバートがさらに説明を加えていった。
オーブとザフトでは戦艦の造りが違うためか、それとも単にこういった艦が珍しいのか 、オーブ代表は興味深げに艦内を見回していて。
代表の随員は少々硬い表情で彼女の隣に控えており、けれどギルバートはそんな彼らを見 つめどこか楽しんでいるようにさえ見えた。
ふいにギルバートと目があい、レイは思わず視線を逸らす。
他意があったわけではない。ただ、はからずも交わった視線に驚いただけだ。
レイは自身 に云い聞かせ、次の場所への移動を促そうとオーブ代表に顔を向けたのだけれど。
「申し訳ないが、少々時間をいただいてもよろしいかな?」
出かけた言葉を打ち切られ、レイは驚いてギルバートを振り返る。
オーブ代表の返事もそこそこに、ギルバートはレイの手を引いて彼らから離れていった。
通路の脇の、元いた場所へ声は届かないだろう位置へと移動し、止まってからやっと 放された腕にレイは内心安堵する。
しかし、ギルバートはレイに体勢を立て直す暇を与えなかった。
「……何か云いたいことでもあるのかね、レイ?」
真っ先に突きつけられた問い。
気づかれていたかと息を呑むレイだったが、しかしここで怯んでは負けだと考え 直し、先刻から頭にあった疑問をギルバートに投げかけた。
「なぜあなたがここにいるんですか」
きっとギルバートには、レイの疑問も考えもなにもかもがわかっているのだろう。彼の 口元に刻まれた楽しげな笑みを見ればわかる。
それでも、どうしても云いたくてレイは言葉を続けた。
「あれほど、危険なことをしないようにと…!」
「私とてわざとやっているわけではないのだよ。議長として、現状把握のための最善の行 動をしたまでだ」
ギルバートの言葉も一理ある。
突然の襲撃。奪われた新型モビルスーツ。破壊されていく軍港。
それらを前に、この新議長が事実関係を知ろうと自ら前に出ようとすることは 想像に難くない。けれどだからといって。
「議長であるからこそ、シェルターに避難すべきではないのですか!」
議長の意志は優先されてしかるべきものだが、議長の身の安全を確保すること はなによりも優先されるべき最重要事項ではないのか。
どんなに頑なな意志を持つ有能な人間であっても、自身をむざと危険に晒すようで は全ての力はないも同然のものとなってしまう。
それを、この若き議長がわからないはずがないというのに。
「そう怒らないでくれないか。私は私の決断を間違ったものだと思ってはいないのだから」
「あなたという人は……」
こうやって肯定したうえで笑うから、レイはなにも云えなくなってしまうのだ。
ギルバートは「すまないな」と続けるも、本気でそうは思っていないだろうことは目を見れ ばわかる。
「それに、ここにはお前がいる。避難してただ報告を待つよりも、ここでお前と共にいる 方が私としては心強い」
そうしてギルバートは、レイの顔を覗きこむようにして、笑う。
「――守ってくれるのだろう?」
レイはわずかに目を瞠った。
どうしてこの人は、そんなことを臆面もなく云えてしまうのだろう。
自分の反応を見て楽しんでいるとしか思えないその様子に、レイは乱されてはいけな いと自身を律する。ここで流されては、ギルバートの思うつぼだ。
だからレイは、常と変わらぬ表情にわずかな笑みをのせて、つとめて冷静にギルバ ートに向き合った。
「……当然です、デュランダル議長」
ギルバートは楽しげに目を細めるのみであったが、レイにはそれで充分だった。
共犯者の笑みを浮かべ、ギルバートはレイの肩に手を置いて、ザフト軍の少年 兵を議長の顔で労う。
「期待しているよ、レイ・ザ・バレル。さて、そろそろオーブの方々の元へ戻ろう か。あまり待たせては失礼だろう」
待たせたのは誰のせいだ、と思わないでもなかったけれど、レイは特に口にする でもなく、ギルバートに促されるままにオーブ代表らのいる場所へと戻っていった。