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どこへ行ったんだろう。
みんな、どこへ行ってしまったんだろう。
ここは暗くて、冷たくて、寂しいよ。
遠くで何かが鳴っている。怖い音がするよ。近付いてくる。
遠いのに、どうしてこんなに近いんだろう。
――みんな逃げて。
早く。早く。ここにいちゃダメだ。早く逃げて。そして。
ダメだよ、手を放しちゃいけない。
ここにいて。ずっとここにいて。もうどこにも行かないでよ。
お願いだから、行かないで。
俺を置いていかないで。
父さん
母さん
マユ
どうして、俺を、ひとりにするの――









「シン。……シン!」

誰かが俺を呼んでいる。父さんの声よりも高い。母さんよりもしっかりしてい る。マユよりも、低い。
もう俺を呼ぶ人は誰もいないのに。俺の名を呼ぶ人はもうどこにもいないのに。 なのに俺はどうして、こんな風に心臓が動いて呼吸をしていて――どうして 、ここにいるんだろう。

「シン?」

誰かが呼んでいる。何かが近付いてくる。赤い、赤いものだ。その赤はいつからか 目の裏に焼きついて離れないもので。真っ赤に染まった腕が伸びてきて。
赤。
赤に染まった腕。
小さなあの子の、小さな腕。
――ねぇ、どこにいるの。
俺は、ここにいるのに。

「……ぁ……」

遠くに響く轟音。近くで響く爆音。何が起きたの。何があ ったの。いつもと違う空には大きなものが飛んでいる。鳥 じゃないあれは一体何。いつもの空はどこ。青く透き通った 、遠く近くけれど届かない、美しい空はどこ。
かえして。あの空をかえして。あの子が好きだといったあの 空を。綺麗な青を黒く赤く染めないで。

「あぁぁぁぁぁぁぁっ」
「シン!」

嫌だ。この赤は嫌だ。
みんなを奪っていった色。みんなのあとに残った色。来る な。こっちに来るな。俺だけを置いていったくせに、俺を連れていっては くれなかったくせに、今になってこっちを向くな。

「だいじょうぶだ」

何が。どうして。どう大丈夫だというのかわからない。
何もかもが大丈夫なんかじゃない。だから嫌なんだ。この色だけは嫌なんだ。

「大丈夫だ。落ち着け、シン」

父さんじゃない。母さんじゃない。マユじゃない。
誰でもない誰かが、俺の名前を呼ぶ。誰。聞きたいのに、聞けない。
あたたかいこれはなんだろう。冷たくないここはどこだろう。包まれている。揺 るがない。
――ああ、俺はここにいるんだ。
赤は嫌いだ。その色は嫌いだ。だけどその向こうに見えるあれは何だろう。 あれは太陽の色。いつでも輝いている、見守っていてくれる、あたたかく力 強いその色をきっとそのまま固めたもの。
綺麗だ。綺麗だと思う。この色はここにあるのか。
手を伸ばして触れられるここに。







だいじょうぶ。
だいじょうぶ。
呟く言葉は呪文のよう。
指に絡めた太陽を、きゅっと握って目を閉じた。
大丈夫。
――俺はまだ、大丈夫。