その先にあるもの
「……また、面倒なことに首を突っ込んでますね?」
「貴様に云われたい台詞ではないな」 「ま、そうでしょうけどね」 そう云って帽子に手をやる男を、竜弦は一瞥した。顔を向けてやる筋合はない。 この男が、一体どこから現われるかなど考えた方が負けだ。神出鬼没などこぞの雑貨屋の店主の正体など知るものではなかった。 「やめといた方が、いいですよ」 それは忠告か。 問わずに視線を向けると、雑貨屋の店主は小さく笑って帽子を直す。 「……首を突っ込んだ、と云ったな」 「はァ、まあ」 「お前にはそう見えるのか」 なにを問おうというのか、竜弦は自らも悟らぬままに言葉を綴る。 それに、雑貨屋の店主は呆けたように首を縦に振った。 「そりゃ、あの子にアナタですしね。言葉を交わすことくらいはあるかもしれないが、決して交わることのない線だ。それを、わからないアナタじゃないでしょう」 ああ、わかっている。 わかっているさ、そんなことは。最初から。 「――私はなにもしていない」 だからこそ、なのだろう。 呟く竜弦を雑貨屋の店主は驚いたように見やり、数瞬してからなにか思いついたように溜息をついた。 「なるほど、ソウイウコトでしたか」 わざとらしく手を打つ。 「なら云い方を変えましょう」 風が揺れる。世界が揺れる。 ざわつくのは一体なんの音だったのだろうか。 この夜を越えた向こうにある明日は、今日とどれほど違うというのだろう。 「火遊びも、ホドホドに?」 そうして今度こそ、雑貨屋の店主はその姿を闇に溶かしてしまった。 なにもない空間から目を逸らし、竜弦は空を見上げた。 胸のポケットから煙草を取り出し、火をつけて軽く咥える。 言葉には出さず呟いた言葉は、きっとこの世界にも届かない。 ――それで終われば、良いのだがな 一護竜弦前提?
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