ある日の出来事 




 なんだこれ。
 最初に思ったのは、それだった。

 そこは近所のスーパーで。
 医院を閉めた直後、夕飯の準備に急遽必要だからと遊子に頼まれて買い物に来た、たったそれだけのことなのに。

「……あの…?」

 不思議そうに見上げてくる少年の格好は、一心の息子と全く同じ制服だった。
 黒い髪に眼鏡、細い身体をした少年。

 一心が落とした財布を片手に首を傾げてみせるその顔は、一心にとって は覚えのありすぎるものであったが、少年からすれば一心の行動は覚えのな いことであるに決まっている。
 その視線が訝しげなものに変わるより先に、一心は我に返って笑顔で手を差し出した。

「あ、いや、ありがとうな!」

 少年がほっとしたように表情を緩めるのに内心苦笑する。
 そりゃまあ、この状態でこんな強面に見つめられたらなにかイチャモンでもつけられるんじゃないかと思うのは当然だろうと思うし。

「いえ」

 つい反射的に大きな声を出していた一心に対し、少年はにこりと笑ってゆっくりと背を向けた。
 もう少しその顔を見ていたい衝動に駆られたが、ここで引き止めるのも不自然すぎて一心は少年の背から視線を離して正面の棚に目を向けた。

 ……似ていた。
 似ていたというよりも、なんというか、そっくりだった。
 顔立ちや雰囲気が、若き日のあいつと瓜二つで。

 それに加えあの制服だ、少年の正体なぞ考えずともわかろうもので。

「なんだかなあ……」

 小さい頃の顔ならば覚えがあるが、まさかこんな風に成長しているとは思ってもみなかった。
 あいつは今でも無駄に若く見えるが、そのあいつが若かったころの生き写しのような少年は、間違いなく彼の息子なのだろう。

 ――あれは反則だ。

 少年と彼とが並んでいる姿を思い描いて、あの少年のような何気ない微笑を彼が浮かべている様まで考えてしまえば、あとは本物に会いたくなるのは時間の問題だった。