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「俺、あんたのことなんて呼べばいい?」
「好きにしなさい」

 その云い方が、なんだか子ども相手みたいで一護は少々ムカっときた。
 そりゃこの歳で総合病院の院長なんてしてて家庭もあるこの人にとっては、自分なん てただの子どもだなんてわかりきってることだけど。
 それでも、ここで会えば診断や急患がない限りは院長室に通してくれて、軽 くお茶が出るくらいの対応してくれてる程度には特別だと知っている。
 それは一護の親が同業者だからというだけが理由ではないだろう、と考えるの も致し方のないことではないだろうか。
「じゃあ、『竜弦さん』は?」
「普通に呼べないのか」
「俺、センセイって呼ぶの好きじゃないんだよな」
 ――それに、好きなように呼んでいいんだろう?
 云うと、書類に向けてた視線がちらりとこちらに向いた。
 その目が自分から離れていかないうちに笑ってみせて、
「竜弦さん」
 呼んだ声は心なしか軽い。
 石田竜弦という名のこの人を呼ぶのにこれ以上相応しいものはないと思えた。
 だって一度だって、この人をただの医者だなんて思ったことはない。
 会ってからこれまで、一護にとってこの人は『石田竜弦』に他ならなかったのだから。
「……勝手にしろ」
 肯定の返事は彼らしからぬぶっきらぼうなもので、それがかえって本当の彼を 垣間見せてくれたようで。
 一護は満足げに微笑み、もう一度その名を呼んだ。