晴天なり 




「お前、俺のことが嫌いなのか」
「かもね」
「かもってなんだよ、かもって」
「じゃあ、嫌いだ」
「……おい」

だって云っただろう?

僕は死神を憎む、と。
――君を憎む、と。
君の前に滅却師として現れたときからずっとそれを云い続けているというの に、どうして君はそんなにあっさりと忘れてしまうことができるのだろう。

僕は死神が嫌いだから死神である君が嫌いだ。
君が僕を意識の内に入れてからは余計に君が嫌いになった。
なのに君は、あの戦いのあとから僕を気にかけるようになった。

迷惑だと何度云ったろう。
やめてくれと何度訴えたろう。

それなのに君は僕の肩を叩き僕の隣に立つ。
気づけば僕の周りには君の友達がいて、彼らもまた僕が友達であるかのように接してきて。

「君が僕をどう思っているのかは知らないけれど、僕が君をどう思うかは 最初から伝えているだろう」
「……死神を憎む、ってやつか?」
「わかっているじゃないか」
「だけど、死神である俺を憎むことと、俺自身を嫌いになるこ とは別問題じゃないのか」
「は?」
「憎いけど好きだとか憎くはないけど嫌いだとかあるだろ。お前、憎むとか 云ってるわりに本気で嫌がってないもんな」

なんだそれは。

思うのに、唖然として開かれた口は思うように動かない。
そんな僕に、さも当然のように君は顔を近づけてくる。
ごくごく近い位置で。――至近距離、で。

「お前の『嫌い』って、ただのポーズだろ」

なにを、君は。

「本気で嫌いだったら、俺の存在なんて意識にさえ入れないんじゃないのか」

――お前の性格だったら。

君はなぜさも当然のように僕の性格を云い当てようとするのか。
僕のなにかを語れるほど君は僕を知らないだろう。

「……君の霊圧が傍迷惑なだけだろう。意識せずにいられるのなら、とっくに そうしている」
「ほら、だから『意識せずにはいられない』んだろ?」
「なにを馬鹿なことを」

ああもう、いい加減にしてくれ。
くだらない会話に付き合う側の苦痛を君は考えたことがあるのか。
これ以上言葉を交わすことも顔をあわせることも億劫になった僕は、肺からめ いっぱい空気を吐き出して足を踏み出した。

全身で拒絶をする。
こうすれば、君は僕を追ってこない。

わかっている。それが君だから。





君が僕を知らなかったときも僕は君を知っていた。
君が僕を知るよりずっと前から僕は君を見ていた。

君が僕を知る少し前に、僕は君が大嫌いになった。

君が死神だから。
それもある。

でも僕は、それでなくてもこんな風に君を嫌いになったと思う。
嫌いで嫌いでたまらなくて、なのにその姿を意識してやまない。
こんな日々を送ることは、もしかしたら僕が君を知ったときから逃れられない運命だった のかもしれないけれど。




僕は君に背を向ける。
君の霊圧を背に感じながら、僕は空を仰ぐ。


今日は快晴。
僕たちの意志に関係なく、明日もきっと晴れるだろう。