世界にひとつだけの花




その花屋は、雨竜が愛用する手芸屋の、交差点を挟んだ手前にあった。
一見するとごく普通の花屋であるが、季節ごとに色とりどりの花が並び、必要以上 に外出をしない雨竜がの目を楽しませてくれた。
だから、手芸屋を出てからの帰りざまにその店に目を向けるのは癖になってはいた のだが、その日はまた特別だった。
妙に体格の良い男性が、店先で花々と睨めっこをしていたのだ。
派手ながらのワイシャツに、履きこんでいるようなジーパンに、極めつけはびっし りとヒゲの生えた顎。一見すると近寄りがたそうなその人は、そのいかつい顔を さらにしかめて、無数の花々を睨み据えているのだ。
――これが気にならないといえば嘘になる。
しかし、渋い顔をしはいるものの、そこにマイナスの感情はないようだった。ただ 純粋に、どの花を選ぼうか悩んでいるのだと察せられた。
雨竜は知らず笑みを零す。
誰か知らないが、この花を贈られる人は幸せだと思った。
その人の顔は、見ればクラスメイトの死神がよく浮かべる渋面に酷似していて、なおさら 雨竜の笑いを誘う。確かにあの彼も、こんな風に悩む姿をみせることがあった。思って みれば、それは傍から見ればどうでも良いことが多いようであるけれど。
八分咲きの赤い薔薇と白い薔薇とを手に、しばらく彼は悩んでいたようだった。……不 似合いにも程がある。
その不釣合いな様に吹き出しそうになるのを堪え、雨竜は自身を誤魔化すように 俯いて空いているほうの手でメガネを押し上げた。
その気配に誘われるように、両手に薔薇を持つ彼は視線を上げ――ひたと見つめ られ、雨竜は身を固くした。
威圧感ではない、けれどなにか、ある種の重圧を感じるのはなぜだろう。しかし雨 竜を見据えたその人は、ふいににかっと笑みを浮かべ、
「おねーさん、こっちので頼む!」
そうして店の中にいたらしい若い店員が受け取ったのは、血のように赤い薔薇だった。
店員はアルバイトなのだろう、少々もたつくことはあったものの、ばらばらだった 花が束ねられ見目よく飾られていく様子を、雨竜はつい彼と共に目を向けてしまっていた。
そうして思う。先程の重圧は、おそらく後ろめたさだろう。人のことを盗み見して、悪 気はなくとも笑っていた。そんなときに見ていた対象から見返されたから、あのよう に感じたのだ。
そんなことを考えているうちに、一本だった薔薇は大きな花束になっていた。
彼が代金を払い、不釣り合いな花束を受け取った段階で、雨竜はあわてて一歩踏み出した。
最後まで見つめておいて、いまさら彼に会わせる顔はない。
しかしすれ違いざまに、

――あの白は君の方が似合いそうだ

そんな言葉が聞こえた気がして、雨竜は振り返るも、彼の背中はすぐ先の交差 点を曲がったところであって。





数日後、諸事情で実家へ戻った雨竜は、玄関に生けてあるいつか見たよう な色と数の、綺麗に咲き乱れた薔薇に首を傾げることとなる。